2-3.事変は突然に②
『私はクローネ公国公女、レーヴェ・ネイガウスと申します。
ご存知かと思いますが、我が国はビエール共和国の侵略を受けました。
現在、私は兄とエーヴィヒカイト城に軟禁されています。
監視下に置かれ、自力での脱出と亡命が不可能です。
もし、真実と受け取っていただけるのであれば、この手紙をベイツリー共和国の「国際傭兵組織」という機関へ、転送をお願いします』
シュッツェは目を瞬かせ、大きく伸びをした。
読んでいたのはIMOに届いた、レーヴェからの依頼書。
筆跡が乱れているのは恐怖からだろう。
もしや『X』とやらに書かされたのかもしれない。
シュッツェには、そう思えて仕方がなかった。
続いて、いつか握り潰した、しわだらけのメモを見る。
『ごめんなさい』
先立つことを謝ったのではなく、騙したことに対する謝罪とも受け取れる。
こんなことを書くぐらいなら、再会を約束する言葉を書けばよかったのに。
わざわざ兄を絶望させることが、目的だったのだろうか。
そう思った瞬間──。
シュッツェは飛び起きた。
「……ダメだ、わからない」
考えに耽っていたが、諦めたように寝転んだ。
思考がこんがらがってきた頃。アインが部屋に入ってきた。
「今、いいか? ジェネロが来ている」
「すまないね。寝ていたかな?」
ソファに座るジェネロが、片手を上げた。
連絡役の彼は、市内のホテルに滞在している。
「いえ。……シキは?」
シュッツェは部屋を見回した。日没が近いが、シキは戻っていない。
「何から話そうか」と、ジェネロは目を瞑る。
「朝刊を見ただろう? そのあと、ミリュー市にいるセアから連絡が入ってね。『大騒ぎになっているから、絶対に近づくな』って言伝を預かった。私はその話を、定期連絡に来たシキに伝えたんだ」
「それで、あのバカはどこに?」
腕を組み、アウルは壁にもたれた。
「そのあと、セアからまた電話があった。通話が終わり次第、シキはミリューへ向かったよ」
「はぁ?」
誰よりも先に、アウルが声を上げた。
「ここからなら鉄道で一時間ほどか。あいつは他に何か言ってたか?」
「『今は話せない』と。ただ──」
ジェネロは神妙そうに、目を細める。
「『すぐにヴェルメル支部へ行け』と言っていたよ」
「くっそ、あの野郎。ダンマリかよ」
壁を殴りつけ、アウルは吐き捨てた。
「彼なりの考えがあるんだろう。とにかく、荷物をまとめて出る準備をしよう」
アインの言葉に、一同は冷静さを取り戻す。
「私は引き続き連絡を待つ。ホテルに戻るね」
コートを羽織り、ジェネロは部屋をあとにした。
「シキってこう……。フラッと出て行くことは、よくあるのか?」
寝具を畳みつつ、シュッツェは問う。
「まぁな。良くも悪くもフットワークが軽い」
ガンケースを背負い、アウルは頷く。
足早に、一行は車に乗り込んだ。
「ったく。こんな時間に運転するなんてな」
運転手のアウルは、どこか楽しそうだ。
「まぁ、戦場に比べたらマシか。追ってくるゲリラもいないし」
ポケットを探り、煙草をくわえる。
暗がりにオイルライターの火が浮かび、煙が充満した。
「吸っていい? とか聞かないの?」
むせつつ、シュッツェは窓を開けた。身を切るような風が車内に吹き込む。
「吸っていい? もう吸ってるけど」
「……シキといい、性格悪いよな」
半笑いでシュッツェは呟く。湧き上がる焦燥を抑え、空を見上げた。
雲の多い夜空には、三日月が浮かんでいた。




