1-2.牽制
「え? これって面接試験ですか?」
シュッツェは、調子の外れた声を上げた。
「いや、オヤジの悪趣味な意地悪さ」
「この二人に協力する価値があるか、見定めただけだ」
シキの言い方が、癪に障ったらしい。
ストレングスは、この上なく不機嫌そうだ。
「IMOはならず者の集まりではない。『傭兵』を勘違いしている馬鹿が多い。国の管理下にあるならば、内部は綺麗でなくてはいけないだろう」
「つまり、誰でも入れるわけじゃないってこと」
人差し指を立て、シキは頷く。
「今回は特例だ。審査をすっ飛ばして加入を認める。表向きには雇用って形で受け入れる。なので、事務手続きを行います」
鞄から出したのは『加入契約書』と刷られた紙。
シュッツェとアインは、契約書に向かった。
カリカリと、ペン先が走る音だけが響いている。
「……シュッツェ・ホッフヌング・ハイリヒ・ネイガウス。妹さんもそうだけど、長い名前だよな」
「昔からの伝統なんだ。俺もよく順番を忘れる」
書類から顔を上げ、シュッツェは首をすくめた。
「はい、こっちは誓約書」
続けて、シキが差し出したのは『加入承諾・誓約書』だ。
加入を認める承諾文から始まり、誓約者が守る留意事項が記されている。
1.履歴書の記載事項は、事実と相違ございません。
2.誓約書の提出後は、正当な理由なく、また無断で加入を拒否しません。
3.貴法人の隊員としての体面を保ち、貴法人の名を汚すことはしません。
4.貴法人の業務上の秘密事項及び、個人情報については、加入中・脱退後も決して他人に漏洩することはしません。
5.どのような任務であっても、従います。
6.報酬の三割は例外を除き、貴法人の口座へ振り込みます。
7.上記に違反した場合は、隊員規則の処分に従います。また故意、重大な過失、その他不都合な行為によって、貴法人及び第三者に損害を与えた場合は、その責任を負います。
「ん?」
妙な一文が混じっていると、シュッツェは首をかしげた。
「いいから署名して」
すかさず、シキが急かす。
「シキって、こういう事務的な仕事もするんだ?」
「たまにね。二人みたいな、訳ありの人を加入させる時とか。これは人事を通さずオヤジに直接渡すから、漏洩の心配はいらない」
「……それは大丈夫なのか?」
「心配無用。名簿の中間あたりに混ぜておくよ。登録する名前や国籍も、適当に考えておく」
大判の封筒に書類を入れ、シキはハトメ紐を綴じた。
「それって文書改ざ……。何でもない」
シュッツェは口をつぐむ。綺麗事を言う割には、随分とやりたい放題だ。
「オヤジ。ちゃんと持って帰ってね」
「ふん」
封筒をひったくり、ストレングスは立ち上がった。
「隊員手帳の発行には時間がかかる。また来る」
「もう帰るの?」
「ルーカスにまめに報告しろと言われている。IMOが亡命に絡んでいたことが公になれば、各国から説明を求められるからな」
「ルーカス……。ルーカス・アンダーソンですか? ベイツリーの大統領?」
世界で最も有名な名前に、シュッツェは声を上げた。
「あぁ。あいつが陸軍の下っ端だった頃から知っている。銃の扱い方を教えたのは俺だ」
鞄に封筒を押し込み、ストレングスは頷く。
「ストレングス殿」
踵を返した背を、アインが呼び止めた。
「失礼な物言いだと、承知した上でおたずねします。……ベイツリーはクローネに対し、見返りを求めていますよね?」
水色の目は、瞬き一つしない。
「……たとえば、駐在軍を置くとか」
「察しがいいな。さては、誰かに吹き込まれたな?」
鋭い指摘にもかかわらず、ストレングスは笑う。
「ベイツリーが好むのは荒れた土地だ。耕しがいがある上に、好きな作物を植えられる」
ひどく遠回しな答えだが、シュッツェが理解するのは早かった。
「あの」と、反射的に声を上げた。
「仮に、俺が大公になったとして。……俺は『非武装中立国』を貫くつもりです。『頭脳で国を守る』。それが先代や父の教えです」
「ほぉ?」
ストレングスの黄色い目が、鋭さを帯びる。
シュッツェは、固唾を飲んだ。
一触即発かと思われたが、上がったのは笑い声。
「この騒動を経ても、その考えが変わってないといいな。……貫いてみせろ」
嘲るような、励ますような言葉だった。
腹に響くような、足音が遠ざかる。まるで嵐が去っていくようだった。




