1-1.圧迫面接
【ここまでのあらすじ】
国際傭兵組織(IMO)の助けにより、兄は逃亡に成功。しかし、妹は失敗し、死体で発見された。
絶望するシュッツェだが、現場や死体の状況から、レーヴェは死んでいない。とIMO隊員のシキは断言。
さらに、逃亡劇の背後には、IMOやビエールではない第三勢力──『X』が関わっていると推測。
シュッツェはレーヴェを見つけるため、IMOは『X』の正体を暴くため、共同戦線を張ることとなった。
日当たりのいい、殺風景な応接室。
目の前には、赤毛をオールバックに固めた巨躯。
黄色い目に割れた顎は、ライオンのよう。
どうして、こうなった。
IMO総司令官の圧を受けながら、シュッツェは回想した。
あれは、共同戦線を張った日──。
「ボスに会わせる」とシキに言われ、隠れ家を出た。
行き先は、セルキオ連邦の北に位置する、ヴェルメル連邦共和国。
『IMOアリステラ大陸方面・ヴェルメル支部』に到着し、現在に至る。
「オヤジ。すごく怖がってるぞ」
シキの言葉が、シュッツェを回想から引き戻した。
「自己紹介ぐらいしてあげなよ」
シキの態度に、シュッツェは肝を冷やした。
無論、アインも同じだ。恐怖を見たように頬が引きつっている。
「IMO総司令官、フレイム・ストレングスだ」
「はいっ」
シュッツェは、ただ頷く。
頭を鷲掴みにされ、食われるとでも思っているのだろう。
「食ったりしないから、かしこまらないでいい」
ストレングスは、いくらか優しい口調になった。
「シュッツェ・ネイガウスです。ご協力、心から感謝します」
「礼はいらん。経緯は聞いた」
「うっ……」
そっけない返答に、シュッツェは言葉を詰まらせる。
「ここからは質問だ」
そう言って、ストレングスは身を乗り出した。
「IMOは『X』とやらに出し抜かれた。君の妹は『X』とグルだったようだが、君は何も知らないんだな?」
「知りません。本当に、僕にもわからないんです」
まるで、首筋に牙を突き立てられているようだ。逃れるため、必死に否定した。
「いくら疑っても無駄だ。彼は無関係だよ」と、シキの援護射撃。
もっと言ってくれ。とシュッツェは、心中で声援を送る。
「じゃあ、質問を変えよう」と、ストレングスの顔が離れた。
「なぜ、妹は姿を隠し続ける? 家族なら、すぐに会いたいと思うだろう?」
「それは……」
ストレングスの圧から、逃れる術はない。シュッツェは、必死に考えを巡らせた。
「……まさか」
ある結論に至った時。目が見開かれ、呼吸が止まった。
「……妹は、俺を囮にする気だと思います」
「ほぉ?」
ストレングスは、興味深そうに腕を組んだ。
鍛え抜かれた上腕二頭筋が、盛り上がる。
「ビエール側は、妹は死んだと思っています。そうなれば、追手は俺に集中する」
「つまり。妹は保身のために、死を偽装したと?」
「保身かどうかはわかりません」
反論するも、シュッツェの声は弱々しい。
「女は状況に応じて、性格が変わるからな。いや、女に限らないことか。親子であろうと恋人であろうと、己の命を秤にかければどちらが傾くか。人間はよく知っているはずだ」
ストレングスの言葉は、毒を塗ったナイフのようだ。
心を抉り取り、疑いや焦燥という毒を残す。
「どうか、そこまでにしてください」
話を遮ったのは、アイン。水色の目は、厳しい光を帯びている。
「シュッツェはもう何度も、打ちのめされています」
丁寧な言葉遣いだったが、声色は冷たい。
「……妹は優しい人間です。あいつは、獣医を目指しているんです」
勇気を振り絞り、シュッツェは声を上げた。
レーヴェは、動物が大好きだ。
巣から落ちた燕のヒナを、助からないとわかっていても育てようとした。
年老いた飼い犬のために、夜中に何度も寝返りをさせ、垂れ流す糞尿の処理をしていた。
献身的な姿を思い出し、シュッツェはさらに強く出た。
「妹は、卑劣な人間ではありません」
口の端を強く結び、ストレングスの反応を待つ。
「ふん。最近の若者は、肝が据わっているな」
上がったのは、脅し文句にも聞こえる言葉。
──殺される。
と覚悟を決めたシュッツェの予想は、大きく外れた。
歯を見せ、ストレングスは笑う。
「いいだろう。改めて、IMOへの加入を許可する」




