章末 新たな任務
「さて。シュッツェの決意が聞けたので、仕事の話をしようか」
両手を合わせ、シキは満足げだ。
重要な話があると察し、シュッツェとアインは並んで座る。
「俺たちは、公女から依頼を受けた。でも、彼女は行方不明。誰から報酬を貰えばいい?」
意地悪な問いに、シュッツェはうつむく。
目の前のシキが、悪辣な取り立て屋に見えているのだろう。
「……あの。俺たち、財産は取り上げられた」
「口座も凍結されている」
なんとも惨めな話だ。クローネの公族と、名家の主人が裸一貫とは。
「俺たちは報酬を稼げってことね」
「その通り。IMO随一のエリート分隊が出動したんだから、1のあとに0が七個はつくな」
「自分で言って恥ずかしくない?」
「全然」
「むかつく」
シュッツェは、ストレートを打ちたい衝動に駆られる。
「そうだなぁ。荒海でカニ漁? それとも炭鉱夫? あ、石油を掘るってのもいいかもねぇ?」
ニタニタと笑うシキは、すっかり悪党の顔だ。
「冗談だよ、報酬もまだ必要ない。代わりに、IMOに加入してもらう」
「……はっ?」
シュッツェは、頓狂な声を上げた。
「IMOに入れば、身の安全を確保できるだろ?」
「それはそうだけど……。シキたちに迷惑はかけられない」
「じゃあ、ここで契約を終了するか?」
突き放すような言葉に、シュッツェは声を詰まらせた。
「今のお前たちを、匿ってくれる人間がいるのか?」
「……いない」
「だろ? いいか、亡命は始まりに過ぎない。困難が始まるのはこれからだ」
残酷だが、シキの言葉に汚点はない。
「ここからが、俺たちの仕事なんだよ。ここで死なれちゃ、俺たちが助けた意味がなくなる」
少しだけ、熱の入った口調だ。
何も言い返せず、シュッツェは瞑目した。
IMOが必要不可欠だと、よくわかっている。
と同時に逃亡生活に巻き込むことに、いまだ躊躇していた。
「シュッツェ。彼らに頼るしかない」
背中を押す、きっかけを作ったのはアインだ。
「敵は『国家』だ。もう私だけでは守りきれない」
弱音にも聞こえるが、これが事実だった。
「アインの言う通り。次期大公であるお前の存在は、敵にとって脅威だ。あらゆる手段を使って殺しにかかるだろう」
「……わかってる。だけど『クローネを救え』って荷が重過ぎる」
「ちょっと、話を大げさにしすぎ」
シュッツェの焦燥を、シキは笑い飛ばした。
「お前の立場上『クローネを救う』って考えになるのはわかる。でも、さっき言ってた『クローネに帰る』って考え方でいいんじゃないの?」
「え?」
のんきな口調に、シュッツェは顔を上げた。
「国に帰れるってことは、脅威がなくなったってことだろ? 結果的に国を救ったってことになる。難しく考えることはない」
「……ヘリクツだ」
「そもそも、国を救うのはずっと先の話だ。まずは小さな問題から片付けていこう」
そう言って、シキは親指と人差し指を立てた。
「俺たちのボスから、新しい命令が下った。一つ目は『X』の正体を調べること。こいつのせいで、IMOが首を突っ込むことになったからだ」
身を乗り出すと、さらに続ける。
「二つ目は、お前の妹を捜すこと。さて、この二つに共通することはなんでしょう?」
なぞなぞのように問われ、シュッツェは眉をひそめる。
思案したあと、ためらいがちに答えた。
「……『X』を追うことは、妹を捜すことと同じってことか?」
「大正解!」と、シキは嬉しそうだ。
「その過程でクローネを取り返す方法を探る。でどう?」
「いいかも」と呟く、シュッツェの顔は明るい。
「もちろん、危険は承知の上だ」
どうする? とシキの口には、挑戦的な笑み。
「……今は、あれこれ考えるのはやめる」
つられてシュッツェも笑うと、手を差し出した。
「その話、乗った。改めてよろしく」
「共同戦線といこうか」
その手を、シキは強く握り返した。
第二章 逃亡 完




