5-4.再起
朝食を済ませ、シキとシュッツェは帰宅した。
「よぉ」と扉の前で、アウルが振り返った。
一服したらしく、煙草の煙を纏っている。
「そーいえば、お前に手紙が届いてたぜ」
「一通はオヤジから。もう一通は……」
二通目の差出人の名を見た瞬間、シキは瞠目した。
すぐに、不敵な笑みに変わる。
「おかえり」
洗い物の手を止め、アインは笑顔で迎えた。
室内には、朝食の残り香が漂っていた。ソファに座り、シキは手紙の封を切る。
シュッツェは何気なく、新聞を開いた。
公世子が亡命したことは、まだニュースになっていない。
「ほれ」
不意に、シキが手紙を差し出した。
「読んでいいの?」
目を瞬かせ、シュッツェは戸惑う。
「もちろん」
差出人を見て、シュッツェは驚いた。
在クローネ セルキオ大使館の元大使、サミュエル・ガルシアからだ。
「『セトウ』ってのは、俺の苗字」
ソファにもたれ、シキは別の封筒を開ける。
紳士を絵にしたような元大使の顔を思い出し、シュッツェは手紙を開いた。
『シュッツェ・ネイガウス殿
セトウ殿より、経緯を伺いました。
宛名にあなたのお名前を書けば、配達員に不審に思われる可能性があるため、セトウ殿の宛名で郵送しています。
ご令妹様の訃報に接しましては、言葉を失っております。
謹んで哀悼の意を表します。
本来ならお会いしたい所存ではございますが、当方、遠方の地にて叶わぬことをお許しください。
公世子殿下、どうぞご自愛ください。あなたは一人ではありません』
「……この手紙。いつ出したの?」
シュッツェは、上擦った声を上げた。
「昨日、俺が書いた。ガルシア夫妻にはお世話になったから、近況報告はしとかなきゃな」
「そうじゃなくて、レーヴェは──」
そこまで言いかけるも、シュッツェは口をつぐむ。
──レーヴェは生きている。
危うく口を滑らせるところだったが、時すでに遅し。
シキの顔が、ゆっくりと上がった。
「何? 彼女は亡くなったって、ヴォルクが言ったでしょ?」
口調は穏やかだが、刺すような視線だ。
「……昨日、聞いたんだ。シキたちの会話」
抵抗をやめ、シュッツェはうつむく。
「どこから?」
「途中から。レーヴェは生きてるかもって、言ってたよな?」
弁解するも、シュッツェは口を尖らせる。
「あのさ。俺が話を聞いてたことって、そんなにダメだった?」
「いや、ダメとは言ってないでしょ。俺、怒ってないよ?」
シキは、不思議そうに首をかしげた。
「で、どう思った?」
「え?」
予想外の質問に、シュッツェは言葉を詰まらせた。
「……よかったって、思った」
「それから?」
「それからって……」
真意のわからない質問に、シュッツェは眉をひそめる。
答えに迷っていると、シキが助け舟を出した。
「言い方を変えよう。それから、お前はどうする?」
「レーヴェに会って、真実を確かめる。俺はクローネに帰りたい」
シキの目を真っ直ぐに見つめ、はっきりと答えた。
目を逸らしたら殺られると、シュッツェに物騒な考えが浮かぶ。
「決まりだな」
しばらく経って、シキは微笑んだ。
「皆、シュッツェの再起だ」
その言葉に、アウルが大きく手を叩く。
「そっか、俺。皆に迷惑かけてたんだな」
察したシュッツェは、気まずそうだ。
「あぁ。お前が立ち上がらなきゃ意味がないからな。……サミュエルさんも、ちょうどいい時に手紙を──」
「何?」
後半の言葉が聞こえず、シュッツェは首をかしげた。
「ただの独り言」
シキは、にんまりと笑う。
誘導尋問を受けたなど、シュッツェは知る由もないだろう。




