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3-4.混血たち

「それで、巻き込まれるのは嫌だってか。とんだクソどもだな」

 ソファに勢いよく腰を落とし、アウルは吐き捨てた。


「落ち着け、何も得られなかったわけじゃない」

 ケトルを火にかけ、ジャガーは感慨深そうだ。


「大臣と大使の好感度が上がったんだぞ? シュッツェの言葉、聞かせてやりたかったね。誰よりも大人だった」


「あの場で外交にヒビを入れたくなかった。クローネが戦場になるんだったら、引き下がるしかなかったよ」

 シュッツェは、生気のない目を伏せる。


「ところでさ。なんで『公世子こうせいし』って地位を、お前は奪われたんだ?」

 胡座あぐらをかき、アウルは首をかしげた。


「全部、叔父の陰謀だ」


「叔父ねぇ。リー……。ナントカって名前だったか?」

 

「リーベンス・ヴェルテュヒ・シックザール。俺の母の弟だ」


「もう一回クローネに潜入して、そいつの脳天に弾丸タマをぶち込んできてやろうか」

 まるで機関銃だ。アウルの口から次々と暴言が発射される。

 

「……あの時、ビエールの宰相が乱入したんだ。『非武装中立国』という立場が、クローネの敗因だって言われた。負けるも何も、向こうが勝手に仕掛けてきたんだ」

 感情が昂ったのか、シュッツェの声が歪む。


 怒りを制御できないアウルが、無言で立ち上がる。

 騒音を立て、外へ出て行った。


「……良くも悪くも、あいつは真っ直ぐなんだ」

 気にするな。とジャガーは、人数分の紅茶をれる。


「先にシャワー使うよ」と言い残し、リビングを出た。


「……変わった人だね」

 マグカップを両手で包み、シュッツェは呟く。


「掴みどころがないだろう?」

 紅茶に角砂糖を入れる手を止め、ジェネロは苦笑した。


 しばらくして、アウルがどこからか戻ってきた。

 同時に、むせるような煙草の臭いが広がる。怒りを鎮めるために、一服したらしい。


「あいつ、風呂入ってんの? 大丈夫か?」


「遅かれ早かれ、わかることだからって」


「そうだな」


 シュッツェは首をかしげた。アウルとジェネロの会話が、理解できないのだ。

 しかし、意味をすぐ知ることになる。

 戻って来たジャガーの髪が、白く変化していた。


「何? あぁそっか」

 シュッツェとアインの驚いた顔を見て、ジャガーは頷く。


「俺の地毛、この色なんだよ」

 完全な白というより、光沢のある銀色だ。


「潜入の時は悪目立ちするから、すぐ落ちるやつで染めてるんだ。まつ毛は無理だから、眼鏡で隠すしかなくてね」

 

 なぜ、まつ毛が白──もとい銀色だったのか。

 シュッツェの中で、違和感が崩れ去る。


「こいつはな。ガキにいじめられてた亀を助けて、人魚の城に招待されたんだ。そこで、人魚から宝箱を貰った。それを開けてみると──。ボン!」

 大げさな手の動きとともに、アウルから擬音語。


「なんと! 宝箱から白い煙が噴き上がり、ジャガーは銀髪になってしまいました。めでたし、めでたし」


「何の話だよ。めでたしじゃないよ」と、ジャガーは冷めた様子だ。


「そういえば。アインの髪色ってプラチナブロンドだよね? 大人なのに珍しい」

 

「よく言われる。そんなに珍しいかな」

 話を振られ、アインは困惑気味だ。


「珍しいよ。プラチナブロンドは子供の時だけって聞くし。……それよりさ、気になってることがあるんだ」

 ジャガーの目が、獲物を狙うように鋭くなった。


「アインって、竜人(パライ人)でしょ?」

 屈託くったくのない声だが、目は瞬き一つしない。

 反応を見逃すものか。という意思が感じられる。


「……そうだ」

 しばらくして、アインからため息が漏れた。


「正確には人間との混血だ。……気づかれたのは、髪のせいかな」


「それもある。でも『耳』で気づいた。一度も見えなかった」


 降参の証に、アインは両手を上げた。

 髪をまとめ、指摘された『耳』を見せる。

 そこに『耳』はない。こめかみの下に、小さな穴が開いているだけだ。


「……本当に『耳介』がないんだね」

 興味深そうに、ジェネロが身が乗り出した。


「ジカイって?」

 聞き慣れない言葉に、アウルは首をかしげる。


「哺乳類の耳についている、外に張り出した部分だよ。パライ人や鳥人ちょうじん魚人ぎょじんには耳介がないんだ」

 ジェネロは、軟骨でできた自身の『耳』をつまんだ。


「一言いいか?」と、シュッツェが割って入った。


「アインが混血だってこと、内緒にしてほしい。耳がないだけで不気味だ、気持ち悪いって言う連中が多いんだ。アインが差別に苦しむのを、俺はずっと見てきた」


「だから身辺調査をした時も、情報が出てこなかったんだな」

 納得したように、アウルが頷く。


「あぁ。私はフェヒター家当主として、振る舞う必要があった。……もう、家に縛られることはないか」


「立ち入ったことを聞いてしまって、申し訳ない」

 神妙な顔つきで、ジャガーは頭を下げた。


「気にしないでくれ。生い立ちは、いずれ話そうと思っていたから」


「親近感が湧いたよ。実は俺も、西洋人と東洋人の混血なんだ」


「え? そうなのか!?」

 上擦った声を上げ、シュッツェは瞠目した。


「気づかなかった」と、アインも首を振る。


「西洋人の父親似なんだ」

 そういえば。とジャガーは呟く。


「自己紹介がまだだったな。俺の名前は『シキ』。これからは、そう呼んでくれ」

 ジャガー改めシキは、人懐っこい笑みを浮かべた。

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