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4-1.任務完了

「……戻らない?」

 刮目するシュッツェから、掠れた声が上がった。


 目の前には、フレイム・ストレングス。

 つい数分前に、ザミルザーニから移動してきた。


 シキの勝利。という吉報に、歓喜したのも束の間。

 告げられた言葉に、兄妹は絶句した。


「何度も言わせるな」と、ストレングスは腕を組む。


「お前たちには、やるべきことがあるだろう」


 正鵠せいこくを得た言葉に、シュッツェはうつむく。

 

「奴の言う通りだ」

 遠巻きに見ていたケラヴノが、割って入る。


「今は国の立て直しが早急だ。またどこかの国に、足元をすくわれるぞ」


「はい……」

 一切の汚点のない追撃に、シュッツェは何も言えない。


「お前は、もう『守られる側』じゃない」


「……そうだよな」

 しばらくして、シュッツェは呟いた。


「俺、もう公世子こうせいしじゃないんだよな」

 小さく息を吐くと、妹と警護官へ振り返る。

 

「今は、割り切って進み続けよう」


「……うん」


「はい」


「もちろん」


 三人はすでに、覚悟を決めていたらしい。

 名残惜しそうな表情ではあったが、大きく頷く。


「それじゃあ、報酬の話をしましょう」

 シュッツェは背筋を正し、ストレングスと対峙した。


 シキによる悪辣あくらつな取り立てを、はっきりと覚えている。

 公族として復権した今、金の心配などいらない。


「礼はいらんぞ」と、ストレングスは一蹴した。


「え?」


「一連の騒動は、気象兵器が起こした問題。こちらに非がある」

 居心地の悪そうに、ストレングはそっぽを向く。


「おい、なんだその顔は?」


「いや、その……」

 あなたに良心があったとは。という言葉が喉元まで迫り上がるも、シュッツェは耐えた。


「ですが、何かしらの対価は必要だと思います」


「ふん、口答えすると思っていた」

 ニヤリと笑い、ストレングスはコートのポケットを探る。


「こいつで手を打ってやる」と、封筒が差し出された。

 おそらく、目玉の飛び出るような額が書かれている。


「そいつを見る前に隊員手帳を返してもらおう」


「あぁ、はい」

 封筒を開ける手を止め、シュッツェは懐を探る。

 

「結局、一度も使わなかった」

 綺麗なままの黒革をさすり、アインの手帳と合わせ差し出した。


「これでお前たちとIMOとの契約は終了した。書類は近日中に発送する」

 ストレングスには名残惜しさや、未練など皆無らしい。 

 別れの挨拶というより、退職の挨拶のようだ。


「アウル、ヴォルク、ケラヴノ、ネロ。本当にありがとう」

 仲間たちへ振り返り、シュッツェは微笑ほほえんだ。


「ディアとセア、ジェネロにもよろしく伝えてくれ」


「楽しかったよ、また会おうぜ」と、アウルは踏み出す。

 シュッツェの肩を叩き、寂しそうに笑った。


「どうせ、また会えるよ」

 無表情ながらも、ヴォルクの口調は穏やかだ。


「『何か』の後始末に困ったら、いつでも呼んでね」


「私はグロワール家へ戻る。達者でな」

 ネロの物騒な軽口に、ケラヴノの真面目な言葉。


 そんな仲間たちを見て、シュッツェは破顔した。

 このやり取りも今日で最後か、まだ続くのか。


「ストレングス殿、ありがとうございました」

 

 この男を例えるなら、縁の下の力持ち。

 彼の根回しがなければ、祖国奪還など叶わなかったに違いない。


「お前なら国を正しい方へ導ける。期待している」

 腕組みを解き、ストレングスは手を伸ばす。大きな手が、シュッツェの肩を叩いた。


 最後の最後で、不器用な優しさを見た。

「……はい!」と、シュッツェの目が潤む。

 

「行くぞ」

 部下を引き連れ、ストレングスはきびすを返す。

 いつもと変わらない、腹に響く足音が遠ざかる。


 いかめしい顔に、かすかな笑みを浮かべて──。

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