表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
139/145

3-2.宰相の誓い

 不意に、地鳴りが止んだ。


 数秒ののち。外壁を覆っていた氷柱ひょうちゅうが、崩壊を始める。

 積雪が舞い上がり、宮殿はもやに包まれた。


 全ての氷柱が消滅し、視認性が回復した頃──。

 曇天を割り、いくつもの光が降り注ぐ。


 久方ぶりの朝焼けに、兵士たちから歓喜の声。

 緊張から身をほぐすように、ヴィリーキィから長いため息。


「……終わったな」と、ストレングスが呟く。

 殺気は消え、表情は柔らかい。


 しばらくして、エントランスホールの扉が開く。

 晴天をもたらした、勝者の帰還だ。


 兵士たちは割れんばかりの拍手とともに、シキを出迎える。

 辺りは、不思議な一体感に包まれた。


「宮殿に残っている兵士たちの収容を」

 ヴィリーキィは、背後の兵士たちに振り返った。

 ようやく、無惨に散った同胞をとむらえる。

 

「はい」

 兵士たちは敬礼を解き、一斉に宮殿へ。

 しかし勝利の興奮が冷めないのか、奇声を発しながら飛び跳ねた。


「ご無事で何よりです」

 ヴィリーキィは、絹のハンカチを差し出す。


「汚れてしまいます」と、シキは遠慮がちだ。

 とはいえ粉塵や血で汚れた顔では、悪目立ちするだろう。


「構いません。すぐに傷の手当てをしましょう」


「はい。……あ、その前に」

 宰相。と改まった声色で、シキは呼び止めた。


「この戦いが終わったら、例の問答を再開する。と言ったお話、覚えていますか?」


「もちろん。今、教えてくださるのですか?」

 シキに向き直り、ヴィリーキィは姿勢を正す。


「あなたは宰相を続けるべきです」


「……やはり、そうきましたか」と、ヴィリーキィは笑う。

 反論することはせず、次の言葉を待った。


「この国は大きな変化を迎えます。その時に必要なのはあなたの存在だ」


「……何も、罪を犯した私でなくとも」

 

「では、戦いを知らぬ者に任せる。というのですか?」

 

「……それは」

 虚を突かれ、ヴィリーキィは顔を上げた。


「過ちを繰り返すのはいつの時代も、当時を知らない者ばかり。この戦いを知る者だからこそ、国を良い方向へ導けると信じています」


「……私に、ウームヌイの跡を継げと?」


「はい。皇帝──あなたの友人は国を変えようとしていた。……サイファの願いも同じだったはずです」


 情に訴えるようなありがちな言葉だが、深く刺さったらしい。

 亡き幼馴染たちの顔を思い出したのか、茶色い目が潤む。

 目を強く瞑り、ヴィリーキィは息を吸った。


「私のことを買いかぶり過ぎでは?」


「そうですよ。だから、ここまで言っているんです」

 飄々(ひょうひょう)とした態度で、シキはニヤリと笑う。


「……そこまで言われては断れません」

 シキの目を見つめ、ヴィリーキィは胸に手を当てた。


「この身をかけて、国を変えると誓いましょう」

 聖書に宣誓するよりも、この若者に誓った方がよっぽどの大義がある。と感じたらしい。


 つい最近まで敵同士だった二人が、固い握手を交わす。

 互いの手は冷え切っていたが、すぐに離れることはない。


 その様子を傍観していた、ストレングスが割って入る。

 それは、あらゆる余韻をぶち壊すものだった。


「さっさと帰るぞ。()()()()()に」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ