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1-3.獅子の本懐

 ストレングスの手が、篝火かがりびへ伸びた。

 刹那、響く轟音と噴き上がる火柱。

 気象兵器の力を受けた炎は天へ伸び、力強く揺らめいた。


「見えるだろう、獅子の姿が!」

 赤髪が風になびくさまは、まさしく獅子の如し。

 ストレングスは、空気を震わせるほど吠えた。


 さらに炎が立ち昇る。シキの目に映るは具現化した力。

 回転する火柱の中には、咆哮する獅子がいた。


 手を掲げ、風を集める。シュルシュルと風が鳴る。

 炎によって生まれた上昇気流に、横風をぶつけた。


 風が炎に触れた瞬間、火災旋風へと生まれ変わる。炎の竜巻だ。

 熱波を浴びれば皮膚はただれ、吸えば肺が焼けるだろう。


 天を衝くほどの火災旋風が、雪をかき消し空を割る。

 周辺一帯を真紅に染め、赤光と熱が放射線状に広がった。


 不意に、降り注ぐ雪が途絶えた。

 積雪は解け、つららは水蒸気とともに姿を小さく変える。


「さっさと行け」と、ストレングス。


「炎の加護があれば、スニエークは敵ではない」


「あぁ、行ってくる」

 全貌を現した宮殿を見上げ、シキは頷く。

 ありがとう。と呟き、笑顔を見せた。


「……これが気象兵器の力ですか」

 シキが去ったあと、ヴィリーキィが声をかけた。


「かなり手加減した方だ」


「……あなたは、一のために百を犠牲にすると言い伝えられています。あれは嘘でしょうか?」 


「さぁな」


「焦土にする道を選ばず、この地の生命を優先した。それが真実なのでしょう」

 目を伏せ、ヴィリーキィは微笑ほほえむ。


「いちいち言うな」

 しゃくに障ったのか、ストレングスは腕を組んだ。


「……シキ殿から伺いました。彼の父──あなたの息子もスニエークに殺されたと」


「あいつ……」

 居心地の悪そうに、ストレングスは後頭部を掻く。

 不機嫌になるかと思いきや、ぽつりと呟いた。


「……あいつの父親は孤児だった。器の後継者にするつもりだった」

 いじめがいのある奴だった。と鼻で笑う。


「あなたなら、本当に崖下へ落としかねないですな」


 我が子を千尋せんじんの谷に落とす。

 自身の血を残すため、他の雄の子を殺す。

 獅子、あるいはライオンには物騒な言い伝えが多い。


「……あなたにもこの戦いに身を投じる、深いわけがあったのですな」


「まぁな。……息子どころか、孫の命まで取られては。な」

 天を仰いだあと、ストレングスはヴィリーキィを睨む。


「この話、シキには言うなよ」


「えぇ。私もまだ死にたくはないですから」

 恫喝口調に動じることなく、ヴィリーキィは頷いた。


 もうじき朝が来る。雪のない空に、二人分の白い息が消えていく。

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