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1-2.火災旋風

 詰所には、シキが予想した通りの人物。

 椅子にふんぞり返り、腕を組むIMO総司令官──フレイム・ストレングスだ。


「遅いぞ」と、不機嫌そうな声が出迎えた。


「ほんっとうに、それしか言わないな」

 薪ストーブに駆け寄ると、シキは口を尖らせる。


「ビエール共和国宰相、ヴィリーキィ・シーリウスと申します」

 脱帽すると、ヴィリーキィは背筋を正した。


「……ここでは『ストレングス殿』と、お呼びした方がいいでしょうか?」


「そうしてくれ」

 意味ありげな言葉に、ストレングスの片眉が上がる。

 牽制し合うような、手の内を探り合うような空気だ。


「ケラヴノの奴、この俺を顎で使いやがって」

 苛立ちを前面に押し出す顔は、威嚇するライオンの如し。


 どこかの宗教では『邪神』。

 あるいは『憤怒の神』と呼ばれるも納得の、気の短さだ。


「オヤジの力が必要なんだ。頼むよ」

 まぁまぁ。となだめ、シキは椅子に座った。


 咳払いを一つし、ヴィリーキィは色褪せた紙を広げる。


「こちらが宮殿の間取り図です」


 宮殿という規模にもなれば、間取り図は大きさも枚数も桁違い。

 にらめっこを始めるも、シキは「無理」と呟く。


「部屋が多すぎ」


「私も把握しきれておりません」と、ヴィリーキィは笑う。


「スニエークがいる場所は、ここ──謁見の間でしょう」 


「開放部──窓が多いな。外から冷気を取り込みやすくするためか」

 図面を指で叩き、ストレングスは唸った。


「えぇ、謁見の間から氷柱ひょうちゅうが宮殿内へ伸びています。間違いないかと」


「出てくる気はなさそうだな。お前は奴がいる檻の中へ飛び込むしかない」


「果たして、生きて帰ってこれるかどうか」

 頬杖をつき、シキは他人事のようだ。


「では、どう動きましょうか」と、ヴィリーキィは顎に手を当てる。


 議論が始まるかと思いきや、ストレングスが立ち上がった。


「論じる必要はない。俺が場を作る」

 炎の化身といえど、氷点下の地は寒いらしい。コートを羽織り外へ出た。


「もうやるの?」

 せっかく温まったのに。と愚痴をこぼしつつ、シキも続く。

 詰所を去る前に、ヴィリーキィに振り返った。


「宮殿周囲の兵士を三百メートルほど後退させ、遮蔽物しゃへいぶつに身を隠せと伝えてください。宰相もここから出ないでくださいね。……出たら、一瞬で死にますから」


「……はぁ」と、ヴィリーキィは怪訝そうだ。

 素直に応じ、シキの背を見送った。


 不気味な色の空に、サイレンが響き渡る。

 退避を伝えるアナウンスとともに、軍用車や歩兵が宮殿から遠ざかる。

 

 後退する兵たちの中、ストレングスとシキは篝火かがりびへ。

 吹きすさぶ風の中、火の粉を吐き出し炎は大きく揺れる。


 ストレングスの黄色い目と、シキの青い目に炎が映る。

 最後の戦いを前に厳かかつ、苛烈な闘志を彷彿ほうふつとさせた。

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