章末 全ての思惑
まるで餌に騒ぐ魚のようだ。とシュッツェは思った。
記者たちの反応を、いつしか楽しんでいる。
どよめきが波紋のように消えたあと、口を開いた。
「帝国を変えたいと思う者が、数多くいます」
おもむろに、シュッツェは立ち上がる。
「この戦いはクローネだけの問題ではありません。国や人種が違う者たちが、協力し抗っています」
クローネや自分は、スニエークに対抗するために投じられた『捨て駒』。
駒を犠牲にし、良い局面へもっていく『サクリファイス』を成功させるために。
「全ての思惑は、たった一つの目的のため。生命を守り、世界を維持することです」
『気象兵器』という言葉は混乱を招くだけ。
曖昧な表現しかできないが、シュッツェの口調に熱が入る。
「今も多くの仲間が戦っています。……『何』と戦っているかはまだ話せません。クローネや世界が平穏を取り戻した時、全てをお話しします」
シュッツェはマイクを下げ、記者の反応を待つ。
しばらく経った頃、一人の男が手を挙げた。ラジオ局の有名パーソナリティだ。
「我々の知らないところで『何か』が起こっていた。というわけですね」
「……放っておけば世界が滅びる。その始まりが帝国。ということだけお伝えします」
パーソナリティの目を見つめ、シュッツェは頷く。
「きっと、歴史に残るビッグニュースでしょうね」
手の内は明かさずとも、マスメディアは察しがいい。
「えぇ、きっと驚くと思います」
「……その時は、あなた方を救国の英雄として語りましょう」
立ち上がると、パーソナリティは両手を叩いた。
小さかった拍手はいくつも重なり、会見場を包み込む。
それは、兄妹への称賛と帰還を喜ぶ音。
拍手を背に受け、兄妹は会見場を出た。
力尽きたように、シュッツェは壁にもたれる。
「お疲れさま」と、アインが肩を叩く。
感極まったのか目が潤んでいた。
「今日は寝る。何があっても絶対寝る」
駄々っ子のようなシュッツェに、一同が笑う。
「誰も止めないさ。その代わり、明日からは山のような仕事が待っている」
「……そうだった」と、シュッツェは鼻の頭にしわを寄せた。
首相や大臣の再任命に、新しい憲兵局長の選出。秩序とインフラ再生。
奪還宣言までにやることは山積みだ。
「まぁ、やるしかないよなぁ」と呟き、シュッツェは窓を見た。
遠い北の大地にいるであろう、戦友の顔を思い出す。
「頭使ったら、腹減った」
「軽食を用意しています」
すかさず、シュテルが耳打ちする。
「ほんと? こんな時間だけど食べちゃお」
大仕事を終えた余韻に浸りながら、兄妹と警護官は階段を上がった。
第七章 収束 完