4-2.北へ
エントランスでは、仲間たちが待っていた。
どの顔にも浮かぶ疲労の色。しかし、シキを見るなり笑顔に変わる。
「もう引き留めないよ」と、シュッツェが一歩踏み出した。
「だから、シキも俺たちの心配はしないで」
頼もしさを感じる、精悍な顔つきだ。
「どうか、お気をつけてください」と、レーヴェも頭を下げた。
「最後まで、君に頼ってばかりですまない」
アインは労うように、シキの肩を叩く。
「死なない程度に頑張れよ」
「今度は助けに行かないからね」
緊張感のないアウルとヴォルクに、一同が苦笑した。
大事の前だというのに、相変わらずの軽口だ。
「武運を」と、ケラヴノは頷く。
「行ってらっしゃーい」
相変わらずの胡散臭い笑顔で、ネロは手を振った。
「行ってきます」と、シキは背筋を正した。
苦楽をともにした、仲間たち一人一人の顔を見やる。
ディアとジェネロがいれば、もっと心配されただろう。
セアリアスがいれば、泣いて引き留められたかもしれない。
仲間たちに踵を返し、シキは歩き出す。
憲兵たちの敬礼を受け、憲兵局をあとにした。
多くの戦争に出征したシキでも、これほどまでの仰々しい見送りは初めてだ。
昼に訪れた公園に、ビエールの車列が待機している。
軍用車の窓が開き、ヴィリーキィが顔を出した。
「もう、出立してもよろしいのですか?」と、驚いた表情だ。
「えぇ。あいつらは荒事に慣れてましてね。大して引き留められませんでした」
荷物をラゲッジスペースに入れ、シキは後部座席へ。
ドアが閉まり、すぐに車が動き出す。
ヘッドライトを灯し、トラックと軍用車の列が車道へ出た。
サイドミラー越しに、シキは憲兵局を見た。
遠ざかる灯りに名残惜しさと、寂しさを募らせながら。
「申し上げたとおり、これからビエールを目指します。そこで列車に乗り換え、首都まで直行します」
分厚い本を閉じ、ヴィリーキィは外を見た。
「首都を襲っていた猛吹雪が、数日前から弱まりました。おそらく、スニエークの弱体化に成功したのでしょう」
「……スニエークは、いつから帝国を支配していたのですか?」
車窓に頬杖をつき、シキは呟く。
「初めて公に姿を見せたのは五年前。……皇帝が崩御した年です」
「出自や経歴が定かでない者を、妻に迎えたのですか?」
「耳が痛い話です」と、ヴィリーキィはため息を吐く。
「皇帝──ウームヌイは、周囲の反対を押し切り結婚しました」
嘲笑に見えるが、どこか寂しそうだ。
「前妻を亡くしたばかりで、弱っていた心につけ込まれたのでしょう。……その後、皇帝は心臓発作で亡くなり、統治権はスニエークへ移った」
「……まさに傾国のお手本ですね。ただの人間ならまだしも、化け物だった」
「下手に手を出せば、国に危害が及ぶ。ただの人間である私には、どうすることもできなかった。しかし、倒す方法はあるだろうと調査を続けました」
顔を上げ、ヴィリーキィは息を吸った。
「……その最中でした、勇利と出会ったのは」
「よかったら、聞かせてもらえますか?」と、シキは首をかしげる。
「ビエールまでは長い道のりです。暇つぶしと思って聞いてください」
ヴィリーキィは両手を組み、座席に深く沈んだ。