3-3.宰相の嘆願
ヴィリーキィは、ソファに深く身を預けた。
対して、シキは浅く腰掛ける。一拍置き、口を開いた。
「……あなたが敵ではない。と薄々思っていました」
「ほぉ、その根拠は?」
身を乗り出し、ヴィリーキィは両手を組む。
「勇利の計画は、一人では成し得ません」
「乱暴な推理ですな」
「でしょうね。詳しく話しましょう」
咳払いのあと、シキは親指を立てた。
「まず、追撃の手が緩すぎる。襲撃は一時的なもので終わった。それに、クローネからの撤退情報もだだ漏れです」
そして。と身を乗り出し、ヴィリーキィとの間を詰めた。
「リーベンスは、公女が生きていたことを知らなかった。なぜ、彼に教えなかったのでしょう?」
青い目が、茶色の目をまっすぐに見た。
これだけの追及にもかかわらず、ヴィリーキィの顔色は変わらない。
「兄妹を追い詰めるフリをして、守ろうとしているように見える。……その時、あなたは勇利の協力者では? という疑問が生まれました」
無言のヴィリーキィから、重たく長いため息。
「お見事です」と、拍手が上がった。
「私の役割は権力を利用し、リーベンスを唆すこと。最低限の仕事をこなし、拘束されるフリをしてクローネから撤退。あなたが来る時を待っていたというわけです」
おもむろに、ヴィリーキィは立ち上がる。窓辺へ寄り、日没前の地平線を見た。
「……こうしている間にも、帝国では多くの犠牲が出ています。敵わないと知っていても、兵たちは国を守るために命を散らしているのです」
それまで抑揚のなかった声が、震えていた。
「私がここへ来た理由。気象兵器としての、あなたの力を貸して頂きたい」
お願いします。そう言って、深々と頭を下げる。
「もちろんです。クローネを奪還したあと、帝国へ向かうつもりでしたから。その前にあなたと話せてよかった」
「……ありがとうございます。首都まで送りましょう、私もお供します」
「助かります。実は、どうやって首都まで行こうかと悩んでいたところです」
そうだ。とシキは立ち上がり、ヴィリーキィの前へ。
「一つ、交わしてほしい約束があります」
「なんでしょう?」
「『公女が身代わりを使ったことを、永久に公表しないこと』です。自分が表に出れば、ビエールが事実を公表するのではないか。そうなれば、兄や国に迷惑がかかる。と公女は心配しています」
穏やかな口調だが、宰相を見る目は真剣そのもの。
「『絶対に公表しない』と誓いましょう。……兄妹には、本当に申し訳ないことをした。全てが落ち着いたら、謝罪するつもりです」
「ありがとうございます。これで彼女が救われる」
「あなたは周到な方ですな。……まるで、勇利のようだ」
窓に映るヴィリーキィの顔は、どこか穏やかに見えた。
「『自分が死んだら、シキを頼れ』と勇利は言っていました。それだけ、あなたを信頼していたのでしょう。私も頼らせてもらいます」
微笑とともに、手を差し出す。
「信頼ですか。……そうだったらいいですね」
ヴィリーキィの手を、シキは力強く握り返した。