3-1.後始末
リーベンスを乗せた担架が、兄妹とすれ違う。
遺体には布が掛けられ、顔を見ることは叶わない。
焦点の定まらない目で、シュッツェは見送った。
すぐに、憲兵たちが後始末に乗り出す。
眼鏡と空薬莢は回収され、血溜まりも拭き取られた。
僭王の最期は、あっけないものだった。
地下室をあとにし、一行は応接室へ。
ソファに座った瞬間、兄妹から大きなため息。
「大丈夫か?」と、シキから第一声。
「流石に堪えた。敵とはいえ、家族だったから」
両手を組み、シュッツェは頭を振る。
「……そういえば」
絨毯の一点を見つめていたが、思い出したように声を上げた。
「叔父は、検死に回されるのか?」
「あぁ」と、アインが頷く。
「事の顛末はきちんと記録しなければ。二人も、あとで事情聴取が待っているだろう。……ところで、遺体はどう弔う?」
「シックザール家は、遺体の引き取りを拒否するだろうな」
神妙は顔つきで、シュッツェは腕を組む。
「それどころか、お母さまの生家は──」
没落する。と呟く、レーヴェの鼻は赤い。
「葬儀はせずに埋葬しよう。あとで手配する」
両親の葬儀を経験済みのせいか、シュッツェは冷静だ。
「では、国民への説明はどうする?」
「マスメディアと報道協定を結ぼう。……しばらくは俺だけで対応する」
歯切れの悪い言葉のあと、シュッツェは妹を見た。
「レーヴェの存在を、まだ明るみにできない」
ズボンに爪を立て、レーヴェは唇を噛む。
世間──特にビエールの認識では、死んだことになっている。
「お前が生きていると知れば、ビエールが騒ぎ立てるだろう。……叔父が言っていたように、身を滅ぼしかねない」
前髪をかき上げ、シュッツェはソファにもたれた。
「その件に関して、ちょっといいか?」
部屋の隅で傍観していた、シキが声を上げる。
「レーヴェが身代わりを使ったこと、ビエールは公表も非難もしないと思う」
「え?」と、一同は瞠目した。
「その根拠は?」
弾かれたように、シュッツェは身を乗り出す。
「……あいつ一人じゃ、成し遂げられるわけがない」
「どういう意味?」
「きっと──」
シキの言葉は、大きめのノックに遮られた。
一同の視線が、扉へと移る。
入口には若い憲兵。走ってきたらしく息が荒い。
「お話の最中に申し訳ありません。実は──」
敬礼を説き、憲兵は一歩踏み出した。顔色は悪く声も震えている。
「ビエール軍の車列が、憲兵局へ向かっています」
一同が言葉を失う中、アインが唸った。
「騒ぎを聞きつけたのか。……まさか攻勢に出るつもりか?」
「わざと背中を見せ、俺たちをおびき出しのかもな」
冷静な口調で、シキは頭を揺らす。
「まぁ、ここで慌てても仕方ない。どうする?」
「逃げたとしても、もう間に合わないだろう。バリケードを設置し待ち構えよう。憲兵たちに武装の上、エントランスに集合と伝えてくれ」
「はい」と、憲兵は小走りで去った。
「シュテル。兄妹をシェルターへ」
「わかりました。参りましょう」
数えきれない脅威を潜り抜け、兄妹の度胸は並大抵のものではない。
「皆、気をつけて」と落ち着いた声をかけ、足早に退室した。
「上から援護する」
背の狙撃銃を揺らし、アウルは上階へ。
「裏方に回るね」と、ヴォルクは兄妹のあとを追う。
凄腕の狙撃手と人狼に加え、ここには気象兵器が三人もいる。
どれだけの大軍が押し寄せようと、負けることはない。
「行こうか」
アインと肩を並べ、シキは歩き出した。