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2-2.僭王の城へ②

 瞬きもせず、リーベンスは一部始終を見届けた。

 しばらく経って口角が上がる。


──やった。

 心の底から、湧き上がる爽快感と優越感。ついに勝ったのだ。

 拳を固め、勝鬨かちどきを上げようとした時──。


「……おイタが過ぎるんじゃない?」

 シュッツェだった肉塊から、声が上がった。


 欠損した頭がわずかに上がる。不思議なことに血が流れていない。

 同じく、欠けた指が動く。

 

 肉塊が起き上がった瞬間、体が溶けた。

 否、透明な液体──水となったのだ。


 生き物のように、水溜まりがうごめく。

 噴水のように湧き上がると、人の形を作った。


「お気に入りだったのに」

 穴が空いたハンチング帽を拾い、砂埃をはたき落とす。

 

「これで一回死んだ」と、ネロは笑った。


「どうだった? 俺の演技」

 そう言って、シキだった肉塊を見る。


 刹那。光を放ち、肉塊が弾け飛ぶ。

 スパーク音とともに、ケラヴノが現れた。


「及第だな」と、スーツの襟を正す。


「何なんだ、お前たちは!?」

 わなわなと唇を動かし、リーベンスは後ずさった。


「気象兵器だよ」と、右手を伸ばすネロ。

 人差し指と中指、薬指を立て、拳銃のポーズを作った。


「ばぁん」

 続けて、幼稚な擬音語。


 瞬間、人差し指の第一関節が切り離された。

 指先は水となり、目にも止まらぬ早さで飛ぶ。それは、文字通りの水鉄砲。


 すぐに、一人の傭兵から上がる絶叫。

 撃たれたももから、血がとめどなくあふれ出す。


「お返しだよ」と、ネロは歯を見せた。


 それだけで、人間たちは戦慄せんりつした。誰も彼もが、一斉に背を向ける。


 緩慢な動きで、ネロはあとを追う。

 手を抜く大人が、全力で逃げる子供と追いかけっこをするように。

 一人、また一人と水に貫かれる。


「少しは自重しろ」と、ケラヴノは険しい表情だ。


「うあああァ!!」

 逃げることを諦めた傭兵が、小銃を構えた。


 しかし、発砲は許されない。

 枝のように伸びる雷が、すぐさま傭兵の意識を奪う。


「これでは、ただの弱い者いじめだ」


「もっと楽しみなよ! 合法的に人が殺せるんだよ?」

 嬉々としたネロの声。開いた瞳孔どうこうが爛々《らんらん》と輝く。


「殺すなと言っている」


「冗談だよ。手加減してるって」

 ネロの足元から広がる水溜まりが、次々と傭兵を飲み込む。


 まるで、自我を持った底なし沼だ。

 歩いたあとには意識を失った傭兵たちが、泡を吹いて転がっていた。


「これで手加減か」と、ケラヴノはしかめっ面。

 心停止した傭兵の胸に、手をかざした。


 放出した雷によって、傭兵の胸が跳ねる。

 大量の水を吐き出し、湿った咳と荒い呼吸が上がった。


「お前が半殺しにして、私が蘇生させる。……だから、お前と組むのは嫌なんだ」

 上機嫌なネロの背に、忌々しそうに吐き捨てた。

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