3-3.無茶な依頼②
「……この手紙。文面から察するに、IMO宛じゃないな」
沈黙を破ったのは、ジャガーだ。
「『国際傭兵組織という機関』。普通なら、そんな書き方しないわね」
納得したように、ディアも頷く。
「手紙を受け取ったのは、クローネに住む竜人だ。その後、俺に転送されてきたってわけだ。何でも、手紙が入った瓶が、川岸に流れ着いていたらしい」
ストレングスの言葉に、ジャガーは苦笑した。
「軟禁されているのに、メッセージボトルを流せるのか? それも、幸運にもパライ人の手元に届くなんて、ありえないね。都合が良すぎ」
否定の言葉が、これでもかと並ぶ。
「胡散臭い話だが、全否定もできん。順を追って説明する」
机に浅く座り、ストレングスは親指を立てた。
「まず、エーヴィヒカイト城はパライ人自治区の上流にある。次に、軟禁であれば、敷地内を歩き回れる可能性がある。そしてあの城は、庭に川が流れている。最後に、クローネは四日前から大雨が降っている」
小指以外を立て、さらに言葉を続けた。
「雨で増水し急流になった川なら、瓶ぐらい流せると思うが?」
「まぁ、なくはないな」
完全に納得したわけではなさそうだが、ジャガーは頷いた。
「言っておくけど。この依頼、完遂できる保証はないよ? 規模がデカすぎる。いくらIMOでも、ビエールに喧嘩は売れない。下手をすれば、ザミルザーニが動くことになる」
「そんなことは俺にもわかる。ならどうやって、公女に断りの連絡を入れる? いいか、これは人道的支援だ」
「『人道的支援』なんて言葉、知っていたのか」
面と向かって言えないらしく、ジャガーは顔を背けた。
「じゃあ、兄妹を保護したあとはどうする? 受け入れてくれる国があるのか?」
「セルキオが承諾した」
隊員たちは、メルカトル図法の地図を見た。
セルキオ連邦は、クローネ公国の西に位置する。
クローネが国難に見舞われた際、軍を派遣する盟約を交わしている。
ちなみに、セルキオも永世中立国。クローネと違うのは軍を保有している点。
つまり『武装中立国』という、変わった国家形態だ。
「それと、こいつを持っていけ」
ストレングスは、懐からもう一枚の封筒を取り出す。
「……計画書?」
珍しく、ジャガーは狼狽した。
「そうだ。監視の服装に巡回時間、行動パターン。物資搬入日と時間。それを踏まえた上で、作戦実行時の兄妹の動きも記してある」
小さな字が、紙一面を覆い尽くしていた。
文字から伝わる、脱出への相当な執念。
「つまり。俺たちは、二日後にはエーヴィヒカイト城にいるってことか」
薄笑いを浮かべ、ジャガーはソファーに倒れ込んだ。
「船は用意した。根回しは俺がしておいたから、さっさと行ってこい」