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2-1.僭王の城へ①

 ハイリクローネア城への道を、三人の気象兵器が歩く。

 城一つを陥落させるには、あまりにも大げさだ。


「面倒だなぁ。僭王せんおうごと潰せばいいのに」

 ゴシック様式の城を見上げ、ネロは笑う。


「お前は極端すぎる」と、ケラヴノからため息。


「ここはクローネ復興の拠点であり、兄妹の家だ。城を壊すなど絶対にさせないからな」


「でもさ、場外乱闘に持ち込まなきゃ、城はメチャクチャになるよ?」


「心配無用。リーベンスは自ら、水面へと上がってくるだろう」


「君は、遠回しな表現が好きだねぇ」と、ネロは首を振る。


「はい、無駄話はそのくらいで」

 両手を叩き、シキは振り返った。


「作戦開始といきますか」



 同刻、昼下がりのハイリクローネア城。


 何も知らないリーベンスは、コーヒーをすすった。

 優雅なひと時とは裏腹に、心を支配するのは焦燥感しょうそうかん


 ビエールの撤退が、じきに完了する。

 強力な後ろ盾を失ったと知れば、シュッツェが攻勢に転じるだろう。


 逃亡しようにも、国境は封鎖されている。

 何より、リーベンスが逃亡を躊躇ためらっていた。

 せっかく手に入れた王座を、敗北という形で手放したくない。


 断続的に貧乏ゆすりを繰り返しては、眼鏡を押し上げる。

 下を向いていると、段々とずり落ちてくるのだ。

 今のリーベンスには、テンプルのゆるみを直す余裕はない。


「リーベンスさん!」と、濁った声。

 部屋に入ってきたのは、大柄な傭兵だ。


「城の正面にシュッツェがいます!」

 

 傭兵の言葉に、リーベンスは反応ができなかった。


「……何を言っている?」

 数秒ののち、半笑いとともに返事が上がる。


「本当です!」と、傭兵は切迫した様子だ。


「まさか──」

 早すぎる。とリーベンスは呻いた。


 スラングとともに、拳をテーブルに叩きつける。

 数人の傭兵を伴い、早足で廊下へ。無論、リーベンスの頭の中は疑問で一杯だ。


 ビエールが撤退を始めた時点で、シュッツェは動き出していた。

 撤退が事実だと確信している。そもそも、どうやってクローネに侵入したのか。


 そんなことを考えつつ、エントランスホールへ。両開きの扉が、重厚な音を立て開く。

 広がる光景に、リーベンスは息を止めた。


「叔父さん」と、悲痛な声が上がった。


 ダークブロンドのクラウドマッシュに、緑色の目。

 間違いない。何度もなぶり殺しにする夢を見た、憎き甥だ。


「シュッツェ……」

 間違いであってくれ。そんな願いは容易く砕かれた。

 さらに隣りの男を見た瞬間、リーベンスの怒りが増幅される。


 銀髪に青い目の男。この男に何度も出し抜かれた。

 ようやく捕まえたかと思いきや。一発、殴りつけるだけに留まった。


「もう、やめてくれ!」と、シュッツェが叫ぶ。


「ビエールが撤退した今、あんたに勝ち目はない!」


 リーベンスの頬が、ピクピクと動いた。

「黙れ!」と、怒号が飛ぶ。


「……もういい。もういい!」

 あらゆる葛藤かっとうを払拭するように、頭を振った。

 

「お前を生け捕りにするのは、もうやめだ!」

 狂ったように叫ぶと、人差し指を突きつける。


 自身の手で、息の根を止める予定だった。もう、そんなことは忘れている。


「撃て! 撃て! 撃てェ!!」

 歯を剥き出し、獣のように吠えた。


 稲光のように、閃くマズルフラッシュ。

 拳銃、小銃、ショットガン。あらゆる銃が火を噴き、轟音を重ねる。

 無数の銃から、絶え間なく発射される弾丸。


「バカがァ!!」

 唾を散らし、リーベンスは笑う。


 シキとシュッツェを、いくつもの鉛が貫く。

 声も発せられず、衝撃で何度も体が跳ねる。


 撃ち損じた弾丸がアスファルトにめり込み、芝生を穿うがつ。

 砂塵が舞い、二人の姿が見えなくなった。

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