1-2.傀儡の巣窟へ②
クローネ公国。非武装中立国を名乗る、人口約三万のミニ国家。
国民一人当たりの国内総生産が高く、裕福な家庭が多い。
昼下がりの首都アオレオーレを、一台のトラックが走る。
幌にはクローネの名産、赤ワインのイラスト。
まさか荷台に公世子と公女が乗っているなど、誰も思わないだろう。
大通りを抜け、トラックはアオレオーレ駅へ。
閑散とした駐車場に停車し、シキが幌から顔を出す。
人目がないことを確認し、軽快な足取りで降りた。
「あー、窮屈だった」
うんざりした声とともに、水入りの水晶が光る。
飛び出すように、ネロが姿を現した。
「声が大きい」
すかさず、ケラヴノから飛ぶ小言。
「……なんか、シキがいないと不安だな」
見送るシュッツェは、覇気がない。
「大丈夫。俺がいなくても、お前は強いよ」
屈託なく笑うと、シキは歩き出した。
三人の気象兵器は、僭王の居城──ハイリクローネア城へ。
※
気象兵器と別れて、しばらくののち。
憲兵局前に乗りつけると、すぐに気づかれる。
そのため、トラックは近くの公園へ。
「……いよいよだ」
深呼吸を繰り返し、シュッツェは立ち上がる。
万が一に備え、コートの下にはボディアーマー。
下半身を保護するプロテクトも着用済みだ。
兄妹が降車した瞬間、小さなどよめきが上がった。
目の前には私服の憲兵たち。数は十人ほど。目立たないよう分散しているらしい。
「ただいま」
清々しい笑顔で、シュッツェは応えた。
誰も彼も、顔をくしゃくしゃにして笑っている。
あちこちから上がる、嬉し泣きと男泣き。
「参りましょう」
アインとシュテルが、憲兵たちへ混じった。
兄妹に振り返ると同時に、顔の前に手を掲げた。
敬礼とともに、憲兵たちが道を開ける。一糸乱れぬ動きは、壮観の一言。
憲兵に囲われ、兄妹は歩き出す。どの目にも恐れや迷いはない。
誰もが前──憲兵局を見つめている。
一人、また一人と憲兵が合流。
憲兵局前に着く頃には、百名以上の集団に膨れ上がった。
異様な集団に動揺したのか、検問はすぐに制圧された。
「カール班は西口、ダニエル班は北口へ」
シュテルの指示に、憲兵たちは冷静かつ迅速に動く。
「止まれ!」
東口──正面玄関で怒号が上がった。
流石に、異変に気づいたらしい。
シュテル曰く『憲兵崩れ』が、ライオットシールドを構えていた。
かつて同志だった者たちが、銃口を向け合う。
だが、すぐに引き金を引くことはない。
引けば最後、殺し合いに発展する。互いに出方を探っていた。
静かな睨み合いの中──。
「無駄な抵抗はやめるんだ」
張りのある声で、アインが集団から出た。