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1-2.傀儡の巣窟へ②

 クローネ公国。非武装中立国を名乗る、人口約三万のミニ国家。

 国民一人当たりの国内総生産が高く、裕福な家庭が多い。


 昼下がりの首都アオレオーレを、一台のトラックが走る。

 ほろにはクローネの名産、赤ワインのイラスト。

 まさか荷台に公世子こうせいしと公女が乗っているなど、誰も思わないだろう。


 大通りを抜け、トラックはアオレオーレ駅へ。

 閑散とした駐車場に停車し、シキが幌から顔を出す。

 人目がないことを確認し、軽快な足取りで降りた。


「あー、窮屈だった」

 うんざりした声とともに、水入りの水晶が光る。

 飛び出すように、ネロが姿を現した。


「声が大きい」

 すかさず、ケラヴノから飛ぶ小言。


「……なんか、シキがいないと不安だな」

 見送るシュッツェは、覇気がない。


「大丈夫。俺がいなくても、お前は強いよ」

 屈託なく笑うと、シキは歩き出した。


 三人の気象兵器は、僭王せんおうの居城──ハイリクローネア城へ。



 気象兵器と別れて、しばらくののち。


 憲兵局前に乗りつけると、すぐに気づかれる。

 そのため、トラックは近くの公園へ。


「……いよいよだ」

 深呼吸を繰り返し、シュッツェは立ち上がる。


 万が一に備え、コートの下にはボディアーマー。

 下半身を保護するプロテクトも着用済みだ。


 兄妹が降車した瞬間、小さなどよめきが上がった。

 目の前には私服の憲兵たち。数は十人ほど。目立たないよう分散しているらしい。


「ただいま」

 清々しい笑顔で、シュッツェは応えた。

 

 誰も彼も、顔をくしゃくしゃにして笑っている。

 あちこちから上がる、嬉し泣きと男泣き。


「参りましょう」

 アインとシュテルが、憲兵たちへ混じった。


 兄妹に振り返ると同時に、顔の前に手を掲げた。

 敬礼とともに、憲兵たちが道を開ける。一糸乱れぬ動きは、壮観の一言。


 憲兵に囲われ、兄妹は歩き出す。どの目にも恐れや迷いはない。

 誰もが前──憲兵局を見つめている。


 一人、また一人と憲兵が合流。

 憲兵局前に着く頃には、百名以上の集団に膨れ上がった。

 異様な集団に動揺したのか、検問はすぐに制圧された。


「カール班は西口、ダニエル班は北口へ」

 シュテルの指示に、憲兵たちは冷静かつ迅速に動く。


「止まれ!」

 東口──正面玄関で怒号が上がった。


 流石に、異変に気づいたらしい。

 シュテルいわく『憲兵崩れ』が、ライオットシールドを構えていた。


 かつて同志だった者たちが、銃口を向け合う。

 だが、すぐに引き金を引くことはない。

 引けば最後、殺し合いに発展する。互いに出方を探っていた。


 静かな睨み合いの中──。


「無駄な抵抗はやめるんだ」

 張りのある声で、アインが集団から出た。

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