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3-2.無茶な依頼①

 『IMOシャムロック大陸方面・エスペランサ支部』

 エスペランサ共和国に駐在する、ベイツリー海軍基地の内部にある。


 つい最近まで、エスペランサは無法地帯だった。

 カルテルが政府と癒着し、麻薬や人身売買が横行していた。


 強盗は日常茶飯事。路地へ入れば娼婦の誘惑。

 粗末な小屋が並ぶスラム街。生ゴミに汚水、生き物の死臭。

 住人たちには普通の光景で、当たり前の臭いだった。


 腐敗した政府を倒すため、軍が立ち上がった。

 後ろ盾にと、ベイツリー共和国のIMOへ支援を求めた。


 クーデターは成功し、新政府が樹立。

 ベイツリーの目論見通り、駐在軍が配備された。


 IMOは他国へ拠点を作る際の、地固めのような存在。

 正規軍ではない傭兵を使い、損害を最小限に抑えている。

 

 IMO隊員が『捨て駒』と呼ばれる所以ゆえんだ。



 アウルは、検問で入港許可証と身分証を提示した。

 ゲートを抜け、軍港の隅へ車を走らせる。

 事務所兼宿舎は、二階建てのレンガ倉庫だ。


 外灯の周りを、羽虫がせわしなく飛び回っていた。

 ドアノブを捻ると、錆びた扉が耳障りな音を立てる。


「ただいま」と帰宅を告げる声は、一体感がない。


「遅いぞ」

 革張りの椅子に座る、大柄な男が声を上げた。


「素直に『お帰り』って言えよ」

 毒づくと、ジャガーはソファに座る。


 男の名はフレイム・ストレングス。IMOの総司令官だ。一部の隊員には『オヤジ』と呼ばれている。


 赤毛をオールバックに固め、割れた顎と黄色い目はライオンを思わせる。

 その上、二メートルはある巨体で凄まれれば、誰もが泣き叫ぶだろう。


「総司令、こちらが今回の報酬です。大統領からの親書も預かっています。ちなみに、勝手に読まれました」

 ディアは、ちらりとジャガーを見た。


「お前、死にたいのか?」

 ストレングスの目が、ギョロリと動く。


「覚えがないねぇ」

 ジャガーは素知らぬ顔で、ソファに深く沈んだ。


「で。わざわざ、ここまで来た理由は?」


「昨日、こんな手紙が届いた」

 ストレングスは一枚の封筒を、顔の高さに掲げる。


「差出人はレーヴェ・ネイガウス。……まさか、クローネの公女か?」

 はっと、ジャガーは顔を上げた。


「クローネって、確か一週間前に……」

 ディアは、棚から新聞を取り出す。


『ビエール共和国、クローネ公国に事実上の侵略』

 大きな見出しが、一面を飾っている。

 海を渡ったエスペランサにさえ、そのニュースは轟いていた。


「とにかく読むぞ」

 

『私はクローネ公国公女、レーヴェ・ネイガウスと申します。

 ご存知かと思いますが、我が国はビエール共和国の侵略を受けました。

 現在、私は兄とエーヴィヒカイト城に軟禁されています。

 監視下に置かれ、自力での脱出と亡命が不可能です。

 もし、真実と受け取っていただけるのであれば、この手紙をベイツリー共和国の「国際傭兵組織」という機関へ、転送をお願いします』


 声を上げる者は、一人もいない。

 シーリングファンの回転音が、やけに大きかった。

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