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後章「昨日の恋敵は今日の親友」

 俺達が働いているコンビニは俺が3年の勤務をやり遂げる事もなく閉店した。



 理由を聞けば赤字経営だった事と近所に大手チェーンのライバル店が出店する見通しがあった事が背景にあるらしい。



「そんな!! 俺との約束はどうなるのですか!?」

「約束?」

「俺は牧野さんのオッ〇イが揉めると信じて頑張ってきたのに!」

「お前、何言っているの?」

「俺は約束したんだ!」

「店長とそんな話していたの? キモッ! 歯が抜けそう! あ、歯なんてないけど!」



 牧野さんはその時、数十秒じっと俺を見ていた。そして微笑んでこう告げた。



「勿論覚えているよ。もうちょっとだったね。またどこかで巡り合えたら契約し直しましょう?」



 俺は頭が真っ白になって帰宅した。



 あのコンビニで働くようになって、俺は独り暮らしも始めた。



 俺の家族は勉強やらボクシングやら優秀な兄がちやほやされるばかりで。俺の居場所なんかなかった。俺は勉強も苦手だし、ボクシングも試合で負けてばかり。しまいには学年の不良に雑魚だと決闘を申しこまれて高校生活も無くなって。



 俺は孤独だ。ずっと孤独のなかにいる。



 牧野さんはそんな俺にとって唯一の希望だったのに。



 煙草を吹かして自殺を考えた。そのときにチャイムが鳴る。



「よぉ」



 俺の家を訪ねてきたのはチョンマゲだ。そうか。コイツは俺が店に忘れものをした時によく届けに来てくれたな。でも今さら何しにきた?



「今さら何しにきた?」

「うまい酒を持ってきた。まぁ飲んでくれよ。飲まないとやれねぇだろ?」



 よくみると片手にビニール袋を持っている。



 コイツ、俺と同じ左利きなのか。



 じゃなくて日本酒かな? 俺は「わかった。あがれよ」と彼を迎え入れる。



「いやぁ~ビックリしたよ。お前とも契約していたのってね」

「契約? お前も牧野さんのオッ〇イを狙っていたのか?」

「ノーノー。でも俺も元々は違うコンビニで働いていてね。あの人にスカウトをされた」

「そうなのか。俺だけじゃなかった?」

「剛力もそう。それよりソレを空けてくれよ。俺にも1杯ぐらい飲ませてくれ」

「コレ、そんなに高い値のする酒じゃないな。あまり上等じゃねぇだろ」

「酒屋で売っている酒を呑みまわったけどもさ、肌に染みた水からつくった酒を超えられるものはない。俺の故郷の酒だ。飲んでくれ」



 俺はちょっとコップに注いで一飲みした。



「悪くねぇ」



 確かに悪くない酒だ。落ちこんでいる今は。



「牧野さんが既婚者なのは知っているのか?」

「えっ!? 人妻なのか!?」

「ああ、それでも俺は面接の時に『何が欲しい?』って尋ねられた。俺は彼女があまりにも綺麗だったから『あなたと交際したい』って言ったのさ」

「うげっ! お前も大胆だな!」

「その時に彼女は結婚している事を教えてくれた。それともう1つのことも」

「もう1つのこと?」

「旦那のモラハラと拘束に嫌気がさしているってね」

「何それ!? 俺、知らなかったぞ!?」

「ふふ、お前が単細胞だから舐められていただけさ。それで俺はあのコンビニで6年間働ききったら、彼女とデートできる権利を与えられた。順調にその目標へ向かっていたのだけどなぁ……」

「しかし牧野さんも変な事をするなぁ」

「そう思うか?」

「だって、人妻なのに目をつけた男を自分の店で働かせるってさ、安っぽいAVドラマでもないのだし」

「お前は単細胞だから、何も詮索しないのだろう。あの人は野望がある人だった。俺が1年やりきってチーフを任された時にあの人は俺に更なる課題を与えた」

「課題? 仕事で?」

「ノーノー。ホラー映画を観尽くせっていう課題さ。俺はホラーが苦手だったが、レンタル屋さんに行って洋画も邦画もホラー映画というホラー映画は全て観た。そのワケを彼女に聞いたさ。そしたら『デートのときはホラー映画を観て、語り合いたいの』って話してくれた」

「妙だな」

「んっ?」

「お前を遊んでいるかのように思えるけど、牧野さんがお前に気があるとして、何で俺にまで種を蒔く真似するんだ?」

「ふふふ、俺にライバルを作ってくれたのさ。そしてそれはお前にもチャンスを与えていることに他ならない」

「なんか複雑だけどさ? 要するに何が言いたいの?」

「お前をスカウトした時点でお前にも気があったのさ」



 チョンマゲのその言葉で俺はハッとした。



 その言葉をどこかで待っていたのかもしれない。



 コンビニ店員として引き抜きでスカウトされるなんて普通はありえない。



 だからひょっとして。ひょっとしたらって。



「でもチョンマゲ、これからどうすればいい?」

「そうだなぁ。迎えにいかないか」

「誰を?」

「牧野さんにきまっているだろ?」



 持ってきた酒を自らグビグビのんでいるチョンマゲは顔を真っ赤にしながら

拳を握ってだしてきた。



「お前、牧野さんの2大趣味を知っているか?」

「え? 犬の散歩と恐いビデオを観ることか?」

「馬鹿、それは彼女が小学生のときのおはなし」

「今は違うのかよ?」

「ホラーとお笑いだ」

「だったとしたら?」



 チョンマゲは微笑む。そして言い放った。



「俺と漫才コンビを組もう。有名になって牧野さんを迎えにいこう」



 俺は何故か涙が溢れた。



 チョンマゲの気持ちが嬉しかったのか。



 牧野さんのオッ〇イを諦めなくていいと言ってもらえたからなのか。どういう感情でそうなったのか分からないけど。



 俺達はグータッチを交わし「ちぇんそーまんず」を結成した。



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