平屋
平屋の家で生まれた。
大人になってから
二階建てに引っ越した。
高校生のときだった。
学校のすぐ近くで、
同級生の隣の家だった。
二階の窓越しに話せた。
ドラマみたいだった。
平屋では未経験の、
夏の二階は暑くて、
それが最初の
良くない印象だった。
二階の暑さに比べて、
一階はひんやりしていた。
二階があるから、
一階はそうだと知った。
飼っていた猫が、
一階の板の間に
お腹をつけて
足を伸ばしていた。
夏の二階は暑かった。
冬の二階は特に、
困ることはなかった。
寒すぎることも。
平屋から二階建てに
変わって、
母親はよく、平屋が
いいねぇと言っていた。
何故そう言ったかは
覚えていない。
ただ今はなんとなく、
頷いてしまう。
当然、年をとると、
階段の上り下りは
辛くなってゆく。
地震も心配だった。
そういうのもあるけれど、
もう少し違った
理由もあった気がする。
生まれた家を思えば。
母親の生まれた家は、
田舎の平屋だった。
周りの風景には、
山と空と田んぼくらい。
夏は暑くても爽やかで、
土間から風が通り抜けて、
時々トンボも通り抜けて、
これもドラマみたいに。
そんな家にいたら、
都会の二階建ての家は、
どんなだっただろう。
それで、なんとなく。
自分も似ているなぁと、
心で頷いてしまう。
平屋に憧れたのは、
その心に繋がったからか。
生きた時を振り返れば、
一番大切に感じるのは、
足のつく地上の、
風通しに至った。
風通しのよい家、
風通しのよい庭、
風通しのよい道、
風通しのよい心。
身の周りの多くは
風通しが悪くて、
病んだり、喰われたり、
落ちぶれたりだった。
平屋の風通しは、
近くの林が囁くようで、
二階に吹く風よりも、
不思議と優しかった。
心も平屋でありたい。
人見知りだから、
難しいのはわかっている。
ついつい積みたがるけど。