ループ4:時遠夏芽の逃走劇
続き投稿しました。
サブタイトルの通り夏芽が逃げている話です。
「ハッ」
目が覚めると、見慣れた天井が目に飛び込んでくる。
ここは………俺の部屋だ。
「また………また、戻って来たんだ」
ハァ、ハァ、ハァ
前回のループでのことを思い出し、嫌な汗が一気に噴き出してくる。
殺された。俺は翔太に間違いなく殺された!
明確な殺意をもって! あんな………あんな方法で!
今でも息が詰まる感覚が残っている気がする。
息が吸いづらい。
思い出すだけで、怖くて涙が出てくる。
「………何で、どうして俺を殺すんだよ!」
俺の叫びが虚しく部屋に響いて消えていく。
誰も答えちゃくれない。
知りたくない。知るのが怖い。
だけど、その答えが何なのか、俺は知らなきゃいけない。
じゃないと俺はまた、翔太に殺されてしまう。
ピピピ ピピピ ピピピ
部屋の中に聞きなれたアラームの音が響き渡る。
「うるさいな!」
乱暴にボタンを押して止めると、何となく机の上にあるスマホに手を伸ばした。
相変わらず画面には、『2021年12月21日』の文字が浮かび上がる。
「………本当、なんなんだよ」
最初のループの通りなら、もうそろそろ準備をしないと母さんが起こしに来てしまう。
とにかく、学校に行かないと。
学校に行けば、俺を殺す理由が何かわかるかもしれないし。
………それに、一人で部屋にいたら、どうにかなってしまいそうだ。
※※※※※※※※
俺は、前回と同じ時間に家を出た。
だけど、その足取りは重い。
恐い。
学校に行って、翔太に会うのが恐い。
翔太に会ったら、いつも通りにしないといけない。だって、アイツは前回のことなんて覚えていないんだから。俺がいつも通りに接すれば、何の問題もないはずだ。
「そうだ。なにも、問題なんか………」
『お前、結構重めのピーナッツアレルギーだもんな。
幼馴染だから、そういうことも知ってるんだよ』
屋上での光景が、脳内にフラッシュバックする。
冷たい表情で倒れた俺を見つめる翔太の顔。
息ができなくて、意識が遠のいていく感覚。
思い出すだけで、体が震えてくる。
「………やっぱり無理だ」
俺は、翔太と会っていつものように笑えるだろうか?
いつものように軽口を叩けるだろうか?
彩本さんの言う通りなら、俺を、もう4回も殺しているのに。
「………無理だ」
俺は気が付くと駅とは反対の方向へ歩き出していた。
今は、翔太に会いたくない。
とにかく、誰もいないところに行きたい。
俺は当てもなく、街中を歩いて行く。
無心で歩いているつもりでも、頭の中ではどうしても、翔太が俺を殺す理由を考えてしまう。
何が、いけなかったんだろう。
俺が彩本さんから手紙をもらったから?
いや、翔太はもっと違うことを言っていた。
『俺の秘密をばらすつもりなんだろ!!』
秘密って、何のことなんだ?
彩本さんが手紙で教えてくれたように、あきちゃんの件で事件性がないと知らせがあった頃、その頃に何かあったのか?
わからない。
なにも思い出せない。
とにかく翔太と会わなくて済むように遠くへ行きたい。
俺は無我夢中で足を動かしていく。
頭の中を相変わらず「なぜ」が埋め尽くして、自分がどこに向かっているのかもわからない。
何もわからないまま、俺はひたすら歩き続けた。
ヒュゥゥゥゥ
もう、20分くらい歩いた頃、突然、冷たい風が首元を駆け抜けた。
ネックウォーマーをしていても、隙間から入り込んでくる風に俺は思わず首をすくめて立ち止まる。
「寒っ………あれ、これって」
ふと足元を見ると、濃いピンク色の花びらがたくさん落ちている。
この花はたしかサザンカだっけ。
俺はサザンカがたくさん咲いている場所に一つだけ心当たりがある。
視線を上げて前を向くと、たくさんのサザンカの木の間に「狭間墓地」と書かれた看板が立っているのが見えた。
「………やっぱり、ここだったか」
気が付けば、俺は地元の墓地の近くまで来ていた。
翔太のことを考えているうちに、こんなところまで来ていたようだ。
「そういえば、一回も行ったことなかったな」
ここには、あの子―――あきちゃんが眠っている。
俺は、あきちゃんが死んでしまってから、辛くて一度も墓参りに来たことがなかった。
「いい機会、なのかもな」
そういえば、前回のループであきちゃんの夢を見たっけ。
それに、もうそろそろ行ってあげないと、あきちゃんに嫌われてしまうかもしれない。
それは嫌だ。
せっかくだし、一回くらいお参りに行ってみよう。
俺は墓地に向かって体の向きを変える。
墓地の入り口は階段になっていて、そのわきに濃いピンク色と白っぽい色のサザンカが植えられている。
なんだか花のトンネルみたいだ。
階段を上っていくと花独特の香りが鼻腔を突き抜けていく。
「そういえば、お参りの用の花持ってないな」
墓地の中を見渡せば、花筒にサザンカを挿している所がいくつかある。
俺と同じように花を忘れた人が、墓地に植えてあるサザンカを折って挿しているのだろうか。
近くのサザンカの木をよく見れば、所々折ったような跡が残っている。
「………まぁ、他の人がやってるならいいのか?」
枝を折ることが禁止されている看板もないし、お参りに来たのに花がないのも何だか味気ないだろう。
俺は手近なサザンカの木の枝を2本折ると、手に持ったまま階段を上っていく。
階段を上ったところには、水道とやかんがいくつか置かれている。
俺はやかんを一つ手に取ると、水を入れて辺りを見渡す。
「どこだろう」
墓地には整然と墓石が並び立っている。
確かあきちゃんの苗字は「冴祈」だったっけ。
「………あった」
墓地の一番奥の列の真ん中あたりに「冴祈家」と書かれた墓石が見える。
墓石の周りには大量の草が生えていて、花筒も空っぽで、だいぶ手入れがされていない様子だ。
俺はあきちゃんの墓石の前まで行くと、水汲み場から持ってきたやかんに入った水をかけて墓石を綺麗にする。
墓石の前の花筒を見ると、中には濁った水が入っている。
俺は花筒の水を入れ替えて、さっきとったサザンカの枝を挿した。
「あとは、掃除だな」
と言っても、道具はないから草抜きぐらいしかできないけど。
「ごめんな、あきちゃん。今度はちゃんと準備して行くから」
俺は謝りながら、無心で草を抜いていく。
「………よし。こんなもんか」
抜いた草がビニール袋にいっぱいになった頃、墓石に生えていた草はすっかりなくなり綺麗になった。
俺はやかんと草の入ったビニール袋を隅に置くと、墓石の前で手を合わせる。
「あきちゃん、来るの遅くなってごめんな」
目を閉じていると、墓地の静かさがより際立って感じるような気がする。
墓地の中には俺以外の人はいない。
こうやって一人、墓地で目を閉じていると、何だか別の世界に迷い込んだような気がしてくる。
『夏芽くん』
「え?」
懐かしい、声が聞こえた気がした。
あたりを見渡すが、誰もいない。
「気のせい、か?」
『夏芽くん』
「また!」
今度は確かに聞こえた。
だがいくらあたりを見ても、墓地には俺以外誰もいない。
「…………もしかして、あきちゃん?」
『………夏芽くん、過去から逃げちゃだめだよ』
「え?」
『夏芽くんは、本当は全部知っているはずだよ』
「………………なんのことだよ」
「嘘つき」
急に、声が今までよりもはっきり聞こえたような気がした。
まるで、本当にその声の主が現実に存在しているかのように。
俺は急いで声の方向へ振り返った。
「――――――」
そこには、あきちゃんが立っていた。
小学校6年生の姿のまま、俺の知っているあきちゃんがそこには立っていた。
ありえない。ありえないはずなのに、俺の目には確かにあきちゃんの姿が映っている。
「………あきちゃん、なのか?」
「過去から逃げちゃだめだよ、夏芽くん」
目の前には確かにあきちゃんが立っている。
なのに、俺の知っているあきちゃんじゃない。
表情が何だかおかしい。俺の知っているあきちゃんは明るくて、笑っていることが多かった。
だけど目の前のあきちゃんは無表情で、生気のない目で俺を見つめてくる。
その不自然さに、何だか鳥肌が止まらない。
「君は、一体………」
「見たんでしょ? 私が死んだ、あの日に」
「っ!!」
急に、目の前のあきちゃんの様子が変わった。
あきちゃんの体はいつの間にかボロボロで、頭からはドロッとした血が垂れていて………
「あ、ああ………」
「ねぇ、そうやって逃げてばかりだと何も変わらないよ。
夏芽くんも私みたいに、また死んじゃうかもね」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
目の前のあきちゃんがニッコリと笑う。
血だらけの顔で、見たこともないような恐ろしい顔でニッコリと笑う。
その顔を見た直後、目の前が急に真っ暗になった。
あれは本当にあきちゃんだったのか、わからない。
だけど、言っていた通りだと思う。
俺は、過去から逃げている。
俺は、昔のこと、あきちゃんが死んだ日のことを思い出すのが恐いんだ。
もしかしたら俺は、翔太が何で俺を殺すのか、本当は知っているのかもしれない。
でも、きっと、思い出すのが恐いんだ。
※※※※※※※※
「ハッ」
目が覚めると、見慣れた光景が目に飛び込んでくる。
だけど俺は訳が分からなくて混乱する。
何で、俺はさっきまで墓地にいたはずなのに………
目の前には、俺の出席番号が書かれた下駄箱がある。
ここは………学校の昇降口だ。
急いでスマホを確認すると、そこには2021年12月22日午前8時20分の文字が浮かび上がる。
ということは、今はループ2日目の朝ってことか!?
何で、どうしていつの間に2日目になっているんだ?
さっきまで、俺はあきちゃんの墓参りをしていたはずなのに。
いつの間にか時も場所も飛んでしまった。こんなことは初めてだ。
「どうしろっていうんだよ………」
いくら考えたところで答えは出ない。
どうして学校に時が飛んだのか、どうして翔太が俺を殺すのか、墓地で見たあきちゃんは何者だったのか、わからないことが多すぎる。
何一つ解決していないのに、強制的に先のステージに進まされた気分だ。
「………とにかく、教室に行くか」
今は登校時間の真っただ中。昇降口も生徒たちで賑わっていてずっとここにいると邪魔になってしまう。
俺は下駄箱から靴を取り出しながら、近くの下駄箱を確認する。
どうやら、まだ翔太は登校してきていないらしい。
だけど、もうそろそろ登校してきてもおかしくない時間だ。
翔太が来たら、俺はどうしよう。
いつも通りに接すれば何も問題はない。それはわかっていても、今の俺にはいつも通りに翔太と話せる自信がない。
「………あの、時遠くん」
不意に後ろから俺を呼ぶ女の子の声が聞こえる。
その声に聞き覚えがあり、俺は急いで振り返った。
「久しぶりね、時遠くん」
「………彩本さん」
そこには、長い黒髪を二つ結びにして赤いマフラーを身に着けた彩本さんが立っていた。
今登校してきたところだからか、寒さで耳が少し赤くなっている。
彩本さんは近づいてくると、一枚のメモを差しだした。
二つ折りになったそれを、俺はためらいつつも受け取って中を確認する。
『また前回のループで死んじゃったの? どうして、死んじゃったの?』
「それは………」
彩本さんは心配そうに俺を見ている。
分かっている。
彩本さんが前に教えてくれたことは真実で、俺も彩本さんも翔太に殺された被害者だ。
だから前回のループで死んでしまった俺に何があったのか、彩本さんは本気で心配してくれているんだ。
………だけど、そもそも前回のループで殺されたのは、彩本さんにもらった手紙を翔太に読まれたからだ。
前々回のループで彩本さん自身が言っていた通り、俺は彩本さんに関わると翔太に殺されてしまう。
今の状況も翔太に見られたら、俺は殺されてしまうかもしれない。
「ごめん。悪いけど、もう俺に話しかけないでほしい」
「え―――」
気が付けば俺はそう口にしていた。
彩本さんは大きな目をさらに開いて固まっている。
よく見れば唇が戦慄いて、上手く言葉が出てこないようだ。
そうだよな。「話しかけないでほしい」なんて誰に言われてもショックだよな。
でも、俺はもう、翔太に殺されたくないんだ。
「本当、ごめん」
俺は早くその場から離れたくて、メモをポケットに突っ込むとそのまま踵を返して教室を目指す。
彩本さんの驚いた顔が今でも脳裏に焼き付いている。
でも、仕方ないじゃないか。
殺されないためには、ああ言うしかなかった。
そう自分を正当化するよう考えても、俺の胸には罪悪感が募っていく。
女の子にひどいことを言ってしまった。
俺はやっぱり、どうしようもない奴だ。
※※※※※※
教室に着くと、今までのループと同じように翔太はまだ学校に来ていなかった。
俺は自分の席に着くとこれからのことを必死で考える。
翔太が来たらどうしよう。
いつも通りに接する、それが最適解だとしても、今の俺にはできそうにない。
俺は、どうすればいいんだ。
もう、何もわからない。
翔太が俺を殺す理由も、翔太の秘密が何なのかも、過去に何があって、俺が何を忘れてしまっているのかも、何もかもわからないことばかりで頭が痛くなってくる。
「………逃げてる、か」
墓地で、あきちゃんに言われたことを思い出す。
俺は、確かに過去から逃げている。
だって、俺にとって過去は悲しいことばかりだからだ。
そんな過去から逃げて何が悪い。
過去を思い出したって、なにもいいことなんてない。
嫌な思い出も忘れてしまえばいい。その方が人間、楽に生きていけるじゃないか。
それの、何がいけないっていうんだよ。
「よぉ、夏芽」
今、一番聞きたくない声が聞こえた。
急いで振り返ると、いつも通り笑みを浮かべた翔太が立っている。
「っ」
何か、何か返事をしないと。
いつも通りにすればいい。そうして彩本さんと関わらないようにしていれば翔太に殺される心配はない。
そう頭では分かっているはずなのに、俺の喉はまるで言葉を忘れてしまったように何の音も出してくれない。
いつも通りにしないと、いつも通りにしないと、いつも通りにしないと、いつも通りにしないと、いつも通りにしないと、いつも通りにしないと、いつも通りにしないと、いつも通りにしないと………
頭の中をそればかりが埋め尽くして、上手く笑えない。
「ん? どうしたんだよ夏芽」
翔太が怪訝そうにこちらを見てくる。
その顔が前回の屋上での光景と重なって、息が苦しい。
「はぁ、はぁ、はぁ」
「おい、なんか息荒くね? 大丈夫か?」
翔太が心配そうにこちらに手を差し伸べてくる。
俺はそれが酷く恐ろしくて、気が付けばその手を払っていた。
バシッ
「え?」
「………あ、ごめん」
「夏芽、どうしたんだよ?」
「ごめん、俺………今日は帰るわ」
「え、おいちょっと、夏芽!」
俺は、逃げるように教室を飛び出した。
不自然だっただろうが、そんなこと気にしている余裕はない。
今は早く翔太から離れたい。
俺は夢中で足を動かす。
階段を下りて昇降口に出ると、相変わらず生徒で賑わっている。
「おい、夏芽、待てって!」
「っ!」
後ろから翔太が追ってきている。
まずい。
早く離れないと!
俺はうまいこと人の合間を縫って自分の下駄箱に辿り着くと、素早く靴を履き替えて校門を目指す。
チラッと後ろを見れば、翔太の姿はだいぶ後ろにある。
すぐに追いつかれることはなさそうだ。
俺はそのまま人波に逆らって校門目指して走っていく。
駅に着くまでが勝負だ。電車に乗ってしまえば、翔太に追いつかれる心配もない。
校門を出ると、すぐ近くに駅に続く大きな交差点が広がっている。
いつもならこの交差点を渡って駅に行くけど、この信号は歩車分離式のため信号が変わるのが遅い。
ちょうど歩行者用信号が赤に変わったところだから、次渡れるようになるまではだいぶ時間がかかるだろう。
信号待ちをしている間に翔太に追いつかれてしまうかもしれない。
俺は交差点を通過して、その一つ向こうの交差点にある歩道橋を渡ることにした。
歩車分離式の交差点よりこっちの交差点の方が駅から遠くなるが、信号待ちをするよりはこっちの方が早く道路を渡れるはずだ。
「はぁ、はぁ、はぁ」
それにしてもキツイ。
文化部の俺にとって、こんなに全力疾走する機会は体育の授業くらいだ。
息が切れる。
喉が痛い。
「着いた。あと少しだ」
歩道橋まで来たは良いが、俺はすでに息も絶え絶えだ。
だけどまだ階段を上るという重労働が待っている。
乾いたのどを潤すようにつばを飲み込むと、俺は階段を上り始める。
もうすでに足は上がりづらくなってきている。
だけど止まるわけにはいかない。
もう少しで階段が終わる。あとちょっとだ。
あと三段………!
二、一………登り切った!
「はぁ、はぁ、はぁ」
さすがにここまでノンストップで走り続けた俺の肺は限界を迎えていた。
歩道橋の上で、俺は少しだけ止まって息を整える。
まぁ、さっき見た時翔太は結構後ろの方にいたし、まだ追いつくことはないだろう。
まだ駅までは知らなきゃいけないし、ちょっとここで休憩して―――――
「………やっと追いついた」
「え」
急に腕が掴まれる。
後ろを振り返れば、恐れていた光景がそこにあった。
「翔太………」
「おい夏芽、何で逃げるんだよ」
恐ろしいことに翔太は息一つ乱れていない。
そういえば翔太は運動神経抜群なんだった。
万年文化部の俺とはそもそもスペックが違い過ぎたのだ。
翔太は俺の腕をしっかり掴んでいて逃げられそうにない。
とにかく、何か言い訳しないと。
「別に、逃げてねぇよ………」
「お前、今日なんか俺を避けてない? 俺何かしちゃった?」
翔太の顔を直視できない。
翔太が今どんな顔をしているのか、見るのが恐い。
「………別に避けてないって。今日はちょっと体調悪いからテンション低いだけだって」
「じゃあ、さっきから何で目を合わせないんだよ」
「…………」
「なぁ、俺が何かしちゃったなら言ってくれよ。俺たち、親友だろ?」
………は? 親友?
あんなことをしておいて、親友?
分かってる。今の翔太は前回までのループで何があったか知らない。
だけど、だからと言って割り切れるわけがない。
俺の中の何かが、音を立てて壊れた気がした。
「………じゃあ言うけど、翔太、お前は俺のこと憎んでるのか?」
「は?」
「俺のこと、殺したいほど憎んでるんだろ! はっきり言ったらどうなんだよ!」
「何のことだよ?」
「とぼけるなよ!!
お前が彩本さんのストーカーなのも、過去のことで隠していることがあるのも全部知ってるんだからな!!」
「何で、そのこと………」
「もうわかってんだよ! もう四回目だぞ!
お前、どんだけ俺を憎んでんだよ! 俺はお前を許さない! たとえ皆が忘れて、無かったことになったとしても俺は覚えてる!! お前の犯した罪はなくならない! 俺はお前を許さない! 絶対にな!!」
「…………………」
気が付けば俺は叫んでいた。
しまったと思った時にはもう遅かった。
翔太の雰囲気が変わったような気がした。
俺の腕を掴んだまま、俯いている。
「………………そうか。アハハハ!
やっぱりそうだったんだな、夏芽。お前は、全部知ってたんだな」
「は?」
突然笑い出した翔太に、俺は混乱する。
なんで、笑ってるんだ?
「それで、俺のこと警察に言うの?」
「え、まさか、お前もループしてるのか?」
「は? ループって何のこと?」
ループしてるわけじゃない? じゃあ警察に言うって、翔太は何のことを言ってるんんだ?
「翔太、お前は何を言ってるんだ?」
「何って、お前はもう全部知ってるんだろ? 俺の犯した罪を」
「罪………」
わからない。
俺がさっき言った罪っていうのは、俺や彩本さんを殺したことを言ってたのに、翔太は一体何のことを言ってるんだ?
「俺、ずっとお前が恐かったんだ。あの日からずっと」
「あの日?」
「夏芽、俺はお前のこと親友だと思ってる。だけど同時に、お前はずっと邪魔な存在だった」
「え………」
「夏芽、お前はいつの間にか変わっちゃったんだな。お前がずっと過去から逃げ続けてくれていたら、こんなことしなくて済んだのに。お前は、お前だけ前に進んで行っちゃうんだな」
「何を言って………」
「許さない。そんなのは許さないぞ夏芽!
お前のせいで俺は前に進めなくなったんだ! それを今更!
……………置いていくなら要らない。お前なんか要らない! もう要らないんだよ!!」
掴まれた腕がものすごい力で引っ張られ、歩道橋の手すりに背中を打ち付ける。
「いっ!」
「……………じゃあな、夏芽」
「え―――――」
翔太の言葉が聞こえた直後、体に衝撃が走り、俺の体はバランスを崩して手すりを乗り越えていく。
混乱する視界の中、最後に見たのは綺麗な青空と、迫り来るアスファルトだった。
最後までお読みいただきありがとうございました。
次回もお付き合いいただけると幸いです。