★恋心③
悠真くんは私の話を聞いてから、ニヤリと笑うと、
「まっ、俺に任せとけって!」
そう言うと、すぅっと息を吸い込み、クラス中に響く声を出した。
「全員ちゅーもーっく!」
その声にクラス中の視線が何事かと、悠真くんに集まる。悠真くんはその様子に満足そうだ。
「放課後、委員長の机の上に社会のノートを提出してから帰ること!以上、業務連絡!」
悠真くんの業務連絡を受けたクラス中が一瞬ざわついたが、悠真くんはそんなことは全く気にかけない様子で得意げだ。私の方を向くと、
「こっちの方が集めて回るより、ラクだろ?」
そう言って日に焼けた顔をにっかりと笑顔にする。私もつられて笑顔を返して、
「ありがとう」
そう言うのだった。
そして放課後。部活へ行く準備を進めるクラスメイト達の賑やかな声の中、
「お前ら、忘れずに社会のノートを如月に出していけよ!」
悠真くんがクラスメイトたちに大声で声をかけてくれる。その声にクラスメイトたちが冷やかすように返した。
「悠真も出せよー?」
「俺は今から出すっつーの!」
そして私の方を向くと社会のノートを差し出してきた。
「ほれ、如月」
「ありがとう」
私は様々な感謝を込めて、にっこりとそのノートを受け取った。それがきっかけとなり、私の元へ続々とノートが集まってくる。私は悠真くんのお陰で、自分で集めて回るよりも短時間でノートを集めることが出来た。あとは職員室へと持っていくだけだ。
私が重たいノートを抱えようとした時だった。
「半分持ってやるよ」
「悠真くん?」
私の疑問をよそに、悠真くんは半分以上のノートをひょいっと持ち上げてくれる。
「ほら行こうぜ、職員室」
「あ、待って!」
そのまま教室を出ていこうとする悠真くんを追って、私は残りのノートを手にして教室を出る。そのまま職員室に続く渡り廊下に差し掛かった時だった。悠真くんが唐突に口を開いた。
「如月のさ、好きなジミー先輩って、体育大会で一緒だった神谷先輩のことだろ?」
私は一瞬何を言われたのか分からず、悠真くんの顔を見る。
「図星?」
悠真くんの質問の意図を汲み取った時、私の顔はみるみる赤くなるのが分かった。そのまま手の力が抜けてしまい、両手で持っていたノートをばさり、と落としてしまう。
「やっぱりそうなのか。如月、練習中もずっと神谷先輩のこと見てたもんな」
「お願い!誰にも言わないで!」
私はあたふたと悠真くんに懇願するだけで精一杯だった。きっと顔は耳まで真っ赤だったと思う。そんな私の様子に悠真くんはぷっと吹き出すと、
「言わねーよ」
そう言って私が落としたノートを拾ってくれる。そして私にそれを手渡すと、
「ほら、早く行こうぜ。部活が始まっちまう」
私は悠真くんが拾ってくれたノートを手にして、真っ赤になっているだろう顔を隠すように俯いて、急いで悠真くんの後を追い職員室へと向かうのだった。
翌日のお昼休み。私はいつも通り凛ちゃんと桃ちゃんと一緒に昼食を摂っていた。
「で、由菜。昨日は結局ジミー先輩に告白してないの?」
「しっ、してないよ!なんか、恥ずかしくって……」
話は何故だか隼人先輩のことに。凛ちゃんたちなりに心配してくれているのだと思った。
「じゃあ、告白する気はあるんだ?」
「ある、と言うか……」
凛ちゃんの言葉に私は語尾がごにょごにょとなってしまう。そんな私に凛ちゃんが追い打ちをかけてくる。
「と言うか、何?」
「2人がした方がいいって言うから、ちょっと考えちゃって」
「考えるようなことなの?」
凛ちゃんの疑問に私は答えることが出来ずにいた。遥先輩のことを考えたら、きっと告白をした方がいいのだろうけれど。そんなことを考えていたら、今まで黙っていた桃ちゃんが口を開いた。
「伝えない後悔と伝えた後の後悔、どっちがいい?」
「え?」
私は桃ちゃんが何を言っているのか一瞬理解が出来なかった。桃ちゃんは続ける。
「どうせ後悔することになるのなら、私は気持ち、伝えてもいいと思うな。後悔先に立たず、なんて言葉もあるしね」
「桃ってさ、何気に難しい言葉知ってるよね」
「茶化さないでよ」
桃ちゃんはそう言って凛ちゃんと笑いあっていた。
(後悔、か……)
伝えず、このまま隼人先輩が遥先輩と付き合うことになった時、私は2人の前で笑うことが出来るだろうか?
(でも告白、かぁ。やっぱり恥ずかしいな……)
私はそんなことを考えながら、いつもの視聴覚室への廊下を歩いていた。告白のことを考えるだけで、顔が熱くなってくる。そしていつも通りの視聴覚室の前に辿り着いた。私はいつも通り声をかけて中に入る。そして隼人先輩から少し離れたいつもの席についた。少し落ち着いてから、私は1つの違和感を覚えた。
隼人先輩が、今日は1度も私に視線を投げかけてくれていないのだ。
(何か、怒らせちゃった、かな?)
私は恐る恐る隼人先輩に声をかけた。
「あの、先輩?」
「何?」
短い返答。先輩がこちらを見ることはなく、その声には少し怒気を含んでいるのが伝わった。私は何かしたかを考えてみるものの、昨日まで普通だった先輩がここまで怒るようなことの心当たりが全くない。
「私、何かしでかしましたか?」
私は探るように尋ねてみるが、
「何かって?」
返ってきた隼人先輩の言葉は冷たく、相変わらず私を見てはくれない。
「分からない、です……」
私が言いよどんでいると、隼人先輩は開いていた小説をぱたんと閉じた。その音に反射的に先輩の顔を見ると、先輩の綺麗な瞳にはかすかに憤りが感じられた。そして、そのまま冷たい声で私に尋ねてくる。
「じゃあ聞くけど、昨日の放課後、渡り廊下で一緒だった男の子は誰?」
(昨日の放課後?渡り廊下?)
私は記憶を引っ張り出そうとする。先輩は尚も言い募った。
「やけに親し気だったじゃない?」
その言葉に私ははっとする。




