2-3
奥の暗がりから気配がする。一体、二体、三体……。闇の中に赤い目がどんどん増えていく。四体、五体……。やがて通路一杯に赤い目が溢れたとき、やつらの姿が現れた。
五体どころの騒ぎではなかった。ゆうに十体は越えている。
「これ、終わったわ」
珍しくサエコが弱音を吐く。見れば小刻みに震えている。あの大晦日の日、神社を出てから幾多の苦難があったが、僕が弱音を吐くことはあってもサエコがこんな風になることなんてなかった。
「何を言うんだきみらしくない。たかがゾンビ十体くらい……」
言いながら反対側の通路を見て絶句した。ゾンビがもう十体、いやもっと多い数が狭い通路を我先にと歩み寄ってきていたのだ。総数三十体越え。○○無双とかでなければ確実にゲームオーバーだ。
「ねえ」
サエコがゾンビの大群を睨み付けたまま言う。
「私が道を開くからきみは先に行って」
「何を言うんだ! そんな少年漫画のお約束みたいなこと! 駄目だ! 死ぬぞ」
「屋上のシャトルでこの解毒剤の瓶を飛ばせば、成層圏手前で破裂して気流に乗る。そうすれば世界中に解毒の雨を降らせることができるはずよ」
「そりゃそうだけど」