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聞き返したところで彼女がぐいっと身を乗り出した。僕の鼻先、数センチ前で止まり、目を覗き込んできた。
「願いは叶う、ということですよ」
「え?」
再び微笑む。
「お正月ですし、ふふふ」
笑いながら、彼女はすっと身を引いていった。今のはなんだったんだ。残り香が鼻先にまとい付く中、出来うる限りの思考を行う。お正月? 願いは叶う? え? 結局一番くじのそれとは違って何かをもらえるものではないみたいだ。謎を解明するため聞きに来たはずが逆に謎を増やしてしまっている。ああ、どうしたものかと思いつつ、巫女さんの目が僕とは違うところへ向けられていることに気付いてその場を離れた。後にはもう何人か並んでいたらしい。その中でずっとこっちを見ている人がいたが無視した。まるでゾンビみたいに呆けた様子でいたから余計に関わりたくなかった。
社から離れて歩き出すと、何人もの人とすれ違う。年が明けてだいぶ経つが、それでも人の流れが途切れることはなく、ここへ来て更に増えている気もした。
そんな人たちの中に見慣れた人がいることに気付いた。それほど明るくはない場所だから人の顔なんて近づかなければよくわかるはずもない。それでも気付けたのは、髪型がいつも通りの短めなポニーテールで、何度も学校で見かけた緑色のチェックのマフラーをしていたからだ。柳さんは僕が学校で「話したことのある」数少ない女子だ。「よく話す」ではなく「話したことがある」のがポイントだ。女子とよく話す男なんて爆発して粉々になって魚の餌にでもなってしまえばいい。心からそう思う。
だから、僕に声をかける勇気なんてあるはずもなく、存在確認をしたのみで終わる……はずだった。
「きゃああぁぁああ!!」