2-10
とりあえず、一番手前にいたゾンビの足を持ち、両手でぐるんぐるん振り回した後、固まっている連中へぶん投げてやった。
「ヒャッハー!! 死ね死ね死ねぇぇええー!」
血飛沫が舞う。視界が真っ赤に染まる。もうゾンビの血なのか自分の血なのかよくわからない。
気付けば周りをゾンビたちに囲まれていた。屋上は僕のいるところ以外、全てゾンビで埋め尽くされていた。
あは。あはは。ははははははは。
大晦日の出来事が遠い昔のようだ。あの美人だった巫女さんの姿を思い出す。なにがおみくじだ。なにがラストワン賞だ。ふざけるな。いいことなんて何もなかった。楽しいことなんて何もなかった。
なぜか思い出すのはサエコの顔だった。くそっ、くそっ、くそっ! あんなやつの顔なんて思い出したくもない! あんなやつ、あんなやつ……!
……って、あれ? まさか。
ふと、どうでもいいとあることに気付く。
地球最後の二人で、サエコがいなくなった。ということは僕は【地球最後の一人】。
なんだか映画のタイトルみたいでかっこいいなと思いながらもコンマ数秒で「こんな賞、いらねーよ!」とツッコんでいた。
知らず涙がこぼれた。その滴が屋上の床を濡らす。それが合図とばかりに周りのゾンビたちは一斉に襲い掛かってきた。肩をかみつかれ、足にかみつかれ、脇腹も胸も尻も全身全てを貪り尽くしていく。
痛い痛い痛い。肉が引きちぎれていく感触に意識が飛びそうになる。腕をもがれ、足を千切られ、腸をほじくりだされた。終わっていく。僕の体が、命が、終わっていく。
意識が途切れるその直前、朝焼けが眩しい空を見上げながら誰にともなく呟いた。
「一度でいいから彼女欲しかった」
それが人類最後の言葉となった。