2-8
僕は人生で初めて、石化するという感触を味わった。足の爪先から頭のてっぺんまで血の気が失せ、まるで自分の体ではないかのような心地だった。
「ああぁぁああー! 死んじゃう! 私、死んじゃう! イケメンの彼氏欲しかったのに! なんで死ぬ間際までこんなマジキモ童貞男と一緒なの! いや! いやぁぁああ!」
腹から血がドクドク流れてるはずなのに彼女の独白……、否、毒白は止まなかった。
ああ、と溜め息が漏れる。
「イケメン彼氏、欲しかった……」
かくん、と力をなくして崩れる。それが彼女、柳佐枝子の最後の言葉となった。止めどなく溢れ出ていた言葉は止み、辺りはひっそりと静まり返った。
僕は何も言わず、彼女の懐に入れてあった解毒剤の瓶を取り出した。
身動ぎ一つしなくなった彼女の体を横たえると、僕は立ち上がり何とはなしに膝のほこりをはたいた。次いで肩をはたく。落ちるほこりは大してなかったが、なんとなくはたきたい気分だったのだ。
部屋を出て通路へ出る。奥のほうにゾンビが見える。ゆうに百体は越えると思う。嘘だ。本当は30体くらいから数えるのを止めている。だって、何匹いようがもうどうでもいいじゃないか。
ああ、僕の人生ってなんだったんだろう。
途端、僕の中の何かが炸裂した。
「うわぁぁああぁぁああぁぁああぁぁーッ!」
絶叫とともに僕は走る。スーパーウルトラメガマックススピードで通路を駆け抜け、邪魔なゾンビは飛び蹴りで頭を破壊し、襲ってくるやつにはショットガンの先を食わせてから脳髄をぶっ壊してやった。
「ぐるぁぁああぁぁああぁぁああぁぁーッ! どいつもこいつも絶滅しろぉぉおおぉぉおおーッ!」