2-7
思いが渦巻く。
それを正しく言葉にできる自信はなかった。
だから。
僕は目をつむり、彼女の顔を引き寄せてそっと唇を重ねた……つもりだった。
「嫌」
なぜか押し戻される感触があり、目をあけると彼女の手が僕の顔を押していたのだ。
「え? あれ?」
「あ、ううん! そうじゃなくてね! あの、そうそう! ほら。ゾンビウイルスは唾液で伝染るでしょ? だからね、このご時世こういうのは良くないというか」
ああ、と僕は納得する。
優しいなサエコ、なんていいやつなんだ。けれどそんな気をつかう必要なんてないんだぞ。
「心配するな。サエコのウイルスなら全部もらってやる」
僕はそっと彼女の顔を抱き寄せ、目をつむりながら唇を近付けて……いったが押し戻された。
「嫌」
「大丈夫だから、大丈夫」
「嫌。嫌。嫌」
掌底が張り付いたみたいに頬へグイグイ食い込む。
「え? なんでなん?」
頭の周りをハテナマークが飛び回る僕。なにがどうなってるんだ。
「もう! 一回でわかりなさいよ! あんたなんかと地球最後の二人になるってだけでも吐き気がするのに、なんでキスまでしなきゃいけないのよ! 出血多量で死ぬ前に気が狂って死ぬから!」