くろにゃんのぼうけん
それはどこかの、おうちのなか。
いっぴきの、くろい。
こどものねこがいました。
おむねのところだけ、まっしろで。
ふかふかな、くろいこねこ。
そのちいさなこねこは、「くろにゃん」とよばれていました。
おうちのなかは、ぽっかぽか。
とってもとっても、いいきもち。
くろにゃんは、おひるねがだいすき。
ぬくぬく、ぽかぽか。
おひさまのひかりをあびながら、うとうと。
とくに、まどのちかくがすきです。
でもくろにゃんは、あそぶのもだいすき。
おいかけっこしたり、とびはねたり。
たかいところに、のぼってみたり。
なんだろう? と、ちょいっとさわったり。
おうちのひとも、くろにゃんとあそんでくれます。
でも。
おうちのひとは、よく「おそと」にいってしまいます。
「おそとって、なにがあるのかな? たのしいのかなぁ?」
たまにおうちのひとが、まどのそとにみえます。
そういうとき。
くろにゃんはなんだか、おちつかないのです。
「おそと」は、たくさん、うごきます。
そういうとき。
くろにゃんはとっても、おいかけたくなります。
「ぼくも、おそといきたい!」
おうちのひとにそういっても、なでなでしてくれるだけです。
おうちのひとには。
くろにゃんが「にゃーにゃー」と、いっているのしかわかりません。
なでなでは、きもちいいけれど。
くろにゃんは、「おそと」にでたいのです。
「おそと」に、なにがあるのかしりたくて。
とってもとっても、さがしてみたいのです。
あるあさ。
おうちのひとが、「おそと」にいったあと。
くろにゃんはまた、まどのところにいきました。
カーテンがひらひらしています。
「おそと」から、しらないにおいがしました。
そう、まどがあいていたのです。
「おそとだ!」
くろにゃんは、わくわくして。
「おそと」にでてみました。
「おそと」は、じゃりじゃりします。
「おそと」は、かたいです。
「おそと」は、ぺたぺたします。
おうちはあんなに、つるつる、ふかふかだったのに。
「これは、わしゃわしゃする!」
「それは、くさだよ」
くろにゃんが、しゃべったら。
だれかが、そういいました。
そっちをみると。
いつも「おそと」のうえにいったり。
したにいったり、うごいているものでした。
おうちのひとじゃ、ありません。
「きみは、だれなの?」
「ぼくは、ことり。とりさんだよ」
くろにゃんより、ちいさいかれは、そういいました。
「とりさん! ぼく、くろにゃん!」
くろにゃんは、おはなしできてうれしくなりました。
「くろにゃん。おそとは、くろにゃんだけじゃ、あぶないよ」
とりさんは、ちゅんちゅんと。
くろにゃんより、たかいところから。
そう、いいました。
「ここは、おそとじゃないの?」
「おそとだけど、おにわだよ」
ことりさんは、よくわからないことをいいます。
くろにゃんは、きになって。
ことりさんに、ききました。
「とりさん、とりさん。これは、おそとじゃないの?」
「ここはおそとだけど、それはつちだよ」
「とりさん、とりさん。これは、おそとじゃないの?」
「ここはおそとだけど、それはいしだよ」
「とりさん、とりさん。これは、おそとじゃないの?」
「ここはおそとだけど、それはどろだよ」
くろにゃんがきけば。
とりさんは、なんでもこたえてくれます。
でも。
「よく、わからない」
「それはまだ、くろにゃんがちいさいからだよ」
とりさんは、ふしぎなことをいいます。
「とりさんのほうが、ぼくよりちっちゃいよ?」
「でもぼくは、おとなだから。くろにゃんは、こどもでしょ?」
「ちっちゃいのに、おとななの?」
「ちいさくても、おとななこともあるよ。おとなはたくさん、いろいろしってるんだ」
なんだか、ふしぎなきぶん。
でもたしかに、とりさんはものしりさんでした。
「そっかぁ。ぼくは、とりさんよりおおきいけど。こどもなのかぁ」
くろにゃんは、うんうんと、うなずきました。
「そうだよ。こどもだから、おそとはおとながいないと、あぶないよ」
「なんで?」
「おそとは、くろにゃんがしらない、こわいものもあるからだよ」
たしかに。
くろにゃんは、「おそと」をよくしりません。
くさも、つちも、いしも、どろも。
ぜんぶ、しりませんでした。
なんだろう? と。
さいしょはすこし、こわかったようなきがします。
「でもおそと、たのしいよ?」
「おうちのひとがいるときなら、ついてきてもらえば、おそとにでてもいいんじゃないかな?」
なるほど。
いまは、おうちのひとがいません。
「もうすぐ、おうちのひとがかえってくるよ」
とりさんは、そういいました。
きゅうにおうちに、かえりたくなりました。
それになんだか、つかれてきました。
「ぼく、おうちかえる」
「おこられて、なかないようにね」
「ぼく、おこられるの⁉︎」
くろにゃんは、びっくりしました。
「くろにゃん、どろんこだからね」
そう。
くろにゃんのからだには、たくさんどろがついていました。
てで、ちょいちょいしても。
おちませんでした。
それどころか、べたべたがひろがりました。
「とりさん! またあそぼ!」
あわてたくろにゃんは、いそいでおうちにはいりました。
おうちはなぜか、つるつるじゃなくて。
ぺたぺたしました。
そのひ。
おうちのひとは、かえってきてびっくり。
くろにゃんのあるいたところが、どろんこになっていて。
くろにゃんも、どろんこだったからです。
くろにゃんは、おこられながら。
おうちのひとに、おふろで。
あわあわにされて、あらわれました。
おこったおうちのひとは、とてもこわかったです。
くろにゃんは、しりました。
「おそと」は、たのしいけど。
「おそと」は、こわいものも、たくさんあるのだと。
でも。
とりさんには、またあいたいな。
そう、くろにゃんはおもいました。




