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遥かを照らす・2

新書「遥かを照らす」2


皆は、中庭にいた。騎士団、魔法官、神官。庭から、王の間のある中央棟を囲んでいる。西棟側にヘドレンチナ、東棟側にミザリウスがいる。クロイテスは、騎士を率いて、魔法官達より前に出て、「人形」と戦っていた。魔法官達は、その援護だ。さらに外側には、神官がいて、俺達が転送から出たすぐ近くに、女王とファランダがいた。女王は、騎士二人に寄りかかっていた。

「お怪我は。」

と、グラナドが駆け寄りながら女王に尋ねた。彼女は、

「無いわ。ただ、『あれ』を押さえる時に、力を使い過ぎただけよ。」

と気丈に言い、レイーラを呼んだ。彼女に、一本の杖を渡す。大型の林檎ほどの、魔法結晶がはめ込まれていた。普通は無色透明の結晶だが、これは、多色に煌めいていた。

ファランダが、「私が。」と言ったが、女王は、

「私達では、かえって上手く扱えない。さっき、分かったでしょう。これは、今、ここに居る神官の中では、レイーラが適任よ。」

と答えた。

「グラナド、貴方には、これを。」

女王は、十字形の、黒光りするペンダントを渡してきた。ペンダント、と言うには、大きく、手のひらに余るが、丈夫な組紐の、「鎖」が付いている。

「急ごしらえだから、その杖に比べたら。でも、貴方なら、使えるわ。」

「これは、なんですか。」

とグラナドが尋ねる。彼も知らないらしい。女王は、それに答えず、

「あと一つ、でも、どうやら。」

とつぶやいた。

そこに、ハーストンがオネストスを連れて来た。オネストスは怪我をしているらしく、ハーストンに支えられていたが、手には、何かを固く握りしめている。

「間に合ったのね。」

と女王が言った。オネストスは、女王とグラナドに目で一礼し、ミルファに、拳の中のものを差し出した。

小型の銃と、丸い弾丸だった。玉は銀色で、金属の光沢はあるが、石で出来ているようにも見える。

「この弾で道を作り、杖と首飾りを一緒に。」

「それは一体。」

とグラナドが問いかけた。しかし、女王は、すうっと意識を失った。ファランダは、女王の名を呼んだが、明らかに動揺していた。

「使い方、わからないのか?」

とシェードが言った。グラナドが「それは…。」と言っただけだ。

「大丈夫だ。俺がわかる。」

と、俺は、軽く、グラナドの肩を叩きながら言った。

伝統的な手段だ。弾丸で敵の急所を狙い、亀裂から、異なる力を、同時に叩き込む。あるいは、弾丸でバリアを貫き、二つの力を。

「じゃあ、行きましょう。敵は王の間の中なんでしょ。」

とカッシーが言った。ミルファは、ハッとして、銃を手に取る。オネストスは、安心したのか、膝から崩折れた。ハーストンが彼を強く支えながら、

「お待ちください。」

と言った。

「王宮の中心には、奴らが邪魔をして、簡単に近づけないのです。転送で直接、内部に乗り込む事はできますが、転送で出ることが出来ません。しかも、数分もしたら、息苦しくなり、体力を消耗し、戦闘どころではなくなります。風魔法使いだと、少しましなようですが。

外側から他の魔法は打てますが、中心に届いているかどうかは不明です。庭に出てしまえば

転送での離脱は可能です。」

よくよく見ると、クロイテス達が戦っている「人形」は、人骨ではなく、土や石、枯れ枝、材木で出来ていた。明らかに調理用具だと思われる物が、腕のように付いている物もある。

「数は減ってきたのですが、街に行かないようにするのが、精一杯です。」

と、ファランダも口添えした。

ただ、俺達なら、可能性はある。俺はグラナドを見た。彼はは、静かに頷いていた。

アリョンシャは、騎士二人に、

「まだ少し耐えて。陛下を安全な所に。」

と言い、俺には、

「吉報を待つよ。ネレディウス、ううん、ラズーリ。」

と言い、女王達と転送で消えた。

ファイスが、

「本当に、これが最後だな。」

と一言、ハバンロが

「では、行きましょう。」

と言う。シェードは、レイーラを見てから、グラナドに、

「終わらせて、ここに戻ろう。」

と言った。レイーラは、黙って頷く。ミルファは、いつもの銃を脇に置き、小型銃を握りしめた。

グラナドは、

「俺とシェードの転送で、中に行く。広間の正面の入り口あたりだ。すぐに戦闘になるかも知れないが、戦闘にレイーラとミルファは、参加するな。俺とラズーリで、まず盾を作る。他の三人は、二人を守れ。」

と支持した。


そして、グラナドの合図で、シェードと二人で、転送魔法を使った。


正統な王の間に閉じ込められた、不当な何かを退けるために。


   ※ ※ ※ ※ ※


転送で王宮正面から入る。いきなり王の間に行けない距離ではないが、ハーストン達の話を受けて、まず入り口近くに出る。

敵の「人形」が一斉に襲いかかってくるが、すかさず魔法剣と気功で吹き飛ばす。奴らが再び骨組みを作る前に、体勢を立て直す。後は、ミルファとレイーラを除く、全員で総攻撃をした。

一通り倒してみると、あたりは、骨の他、棒やら木片やらが派手に散らばっている。それらに混じって、ミルファが普段使っていた銃の弾より、一回り大きな、暗い紫色の玉が、いくつも見えた。

小型の水の盾を出して、剣先を上手く使い、上に一つ、載せた。こういう時、攻撃魔法が氷塊ではなく、ウォーターガンだったら、訓練次第ではあるが、手の延長のように使えて、便利だったか、と、一瞬、考えた。

玉は柔らかかったが、かなり力を入れても、潰れない。だが、グラナドに促されて、レイーラが触ると、一瞬で溶けた。

おかしなガスも、煙も出なかったが、レイーラは、短く叫んで、手を引っ込めた。シェードが警戒を強めたが、彼女は、

「ううん、大丈夫よ。ただ、何か、指先から、入って来そうな気がして。」

と答えた。それを聞いて、シェードが、結晶に触ってみて、うわ、と声を上げた。

「何か『吸い取らる』みたいだ。姉さんと、逆だな。」

それにハバンロが、ああ、と納得したような声を出し、

「先程、気功で弾き残った欠片が、腕に当たったのですが、そのような感じがしました。」

と言った。

俺は、触ったが、何ともなかった。グラナドも、一つ拾って見たが、おかしな様子は無い、と言う。カッシーとファイスも軽く触ったが、何ともなかった。

ミルファも小さいのを拾って見たが、レイーラと同じようなことを言い、すぐ捨てた。ただし、結晶が溶けたりはしなかった。

「魔法属性も、魔法能力も関係ないのか。何か規則性はあるんだろうが、わかっても意味があるかどうか。」

とグラナドは言い、指で摘んでいた結晶を捨てた。

ハーストンの話からすると、何らかの強力な、魔力の吸い上げがあるのは予想していたが、俺達には耐性が付いている。そう考えていたが、一葉に同レベルではない。俺は、だいたい条件は思い当たったが、今、指摘しても、あまり意味はないため、言わなかった。ただ、カッシーは、気づいたらしく、苦笑いしていた。

人形達は最後の砦だったのか、これ以降は現れず、王の間を目指して進む間は、何も出なかった。警戒しながら進んだので、真っ直ぐ進むだけでも、時間はかかったのだが。

「こんな間取りだったか?いや、間取り、と言うよりは。」

と、ファイスが言いかけた。カッシーが、

「ちょっとずつ、どこか違う、て感じね。」

と引き取り、廊下の壁の一部を指した。

「ここのライオンの刺繍。こんなじゃ、無かったでしょ。シスカーシアが、好きと言ってたから、覚えてたんだけど、。」

俺は覚えてなかった。ミルファが、目を見張り、

「これ、違うわ。」

と不快そうに言った。グラナドは覚えていて、

「ライオンの親子が、寛いでる構図だった。」

と言った。しかし、このライオンの親子、いや、親子かどうかわからないが、三匹のライオンは、三つ巴で、争っていた。グラナドは、壁掛けの刺繍の他の部分をざっと調べた。疾走する馬にのる騎士や、聖女コーデリアが、大きなモンスターを諌めている図はそのままだ。しかし、幼いコーデリアが、両親と草原で寛いでいる、一際大きな刺繍の図は、違っていた。親子三人が、巻物を見ながら、争っている図になっていた。

シェードが、

「これだけ絵があるんだ。記憶違いじゃ、ないのか?」

と尋ねたが、ハバンロが、反対側の壁を指して言った。

「そこの天使の彫像と、刺繍の図が、確か、組になっているはずです。聖家族を祝福する天使、の逸話で。

天使はそのままです。これでは、ちぐはぐになります。」

グラナドは気になるようだった。おそらく、他にも色々とありそうだが、細かく検証している暇はない。先を促そうかと思ったが、いきなりドラムのような音がし、周囲のドアや窓が、開き始めた。最後に、はるか正面にある、王の間が開いた。

俺とグラナドは盾を出した。ハバンロが、逆方向に飛んで、気功の構えをした。だが、飛び退くはハバンロの背景が、気づく隙もなく、王の間になっていた。

「寄れ!散るな!」

とグラナドが言う。散ったほうが、とシェードが言ったが、ミルファに腕を引っ張られ、グラナドの盾に入った。

《懐かしい。会いたかった。》

王座の方から、声がした。

「陛下!」

と、ミルファとハバンロが、同時に叫んだ。


王座にいる者は、ルーミの姿をしていた。


俺もグラナドも、叫ばなかった。魔法剣と火の玉を、王座に放つ。ミルファは、待って、と言っていたが、待つ訳はない。

ファイスが切りかかり、シェードとハバンロも後に続く。カッシーは迷ったが、盾を出して、ミルファとレイーラを守る。

《やはり、この手は、効かないか。》

ルーミだった物は四散し、今度はソーガスの姿になった。霧の鞭が飛んでくる。払いのける、盾に吸収させる。すると、ガディウスの姿になった。攻撃が当たる度に、エスカー、タルコース、キーリ、誰かわからないが、黒髪の青年、金髪の少年、「夢」の中で見た、獣の冠の青年、と、次々姿を変える。

最後に、俺の魔法剣が当たった時、「彼」は、アダマントの姿になった。

「これは、本物だな。」

と、グラナドが言った。すでに、ルーミの姿に驚かなくなっていた俺も、これには驚いた。

「中身は違うようだが。」

グラナドは落ち着いていた。敵は、アダマントの声どころか、まったく別次元から出すような声で、

《今更、ごまかすつもりはない。》

と言った。グラナドは、皮肉に、

「どうかな。最初から、嫌味な仮装で、迎えてくれたようだが。」

と返答した。敵は、それには答えず、俺に向かい、

《この男は、お前が嫌いだったんだよ、ネレディウス。全てを手に入れ、全てを手放し、また平然と、全てを望む、お前が。》

と言った。

俺は、記憶のアダマントを辿った。ホプラスの記憶には、陽気な、良い友人としての彼しかいない。

「今までの事も、説明が付くわね。」

と、カッシーが、きつい調子で、つぶやいた。「彼」に聞こえたとは思えないが、いきなり高笑いし、返答は俺にする。

《そんな事は、どうでもいい。姿など、何にでも変えられる。「俺」は、お前たちが、退けてきた者達だ。》

シェードが、

「何だ、一体。」

と言った。独り言の声だ。だが、「彼」は拾った。またしても、返答は、俺にした。

《バランスの球体が、なぜ鈍るか、わかるか?俺達が「溜まる」からだ。一人を選び出すために、「俺達」を配置する。なぜ輝くか、わかるか?配置された「俺達」が、一人の為に、散っていくからだ。

だが、残滓は残る。そして、今、「俺達」の番がくる。》

そういう事か。上が把握できない筈だ。「彼」は、勇者と守護者に、向かう槍だ。バランスを完全に闇に葬るか、光と共に爆発させるか。ワールドを自主的に終わらせる為に。いや、終わりが先なのか。

俺は、何か言おうとしたグラナドを制して、

「残念だが、「番」は諦めろ。」

と言った。

「そう、本来なら、お前達の勝ちだ。闇に消えるか、光に溶けるか。だが、ここには、まだ、俺がいる。居るはずのない、守護者の俺が。だから、まだ、終わりは、ない。」

俺が存在したのは、このためだ。今、はっきりと解る。これは、「彼」には、計算外だ。

しかし、「彼」は、不敵に、

《閉ざされた中で、後ろ盾も無く、止められる物なら、止めてみろ!》

と、さらに高笑いを返した。

「危ない!」

とミルファが叫んだ。「彼」の姿は、白く輝き出し、熱を帯びた。しかし、次の瞬間には紫に、凍るような息を投げる。気流のベルトが周囲を取り巻き、

対流を始める。霧は固くなったが、ファイスとシェードの剣術の餌食になり、次々砕けた。ハバンロが気功で欠片を吹き飛ばし、カッシーが霧が固まろうとするタイミングで、焼く。ハーストンの話から、風魔法以外は、中心部では、上手く使えない、と思っていたが、シェードが早口で、カッターが出にくい、と言い、カッシーは、普段より強い火力に驚いていた。アダマント本人の魔法は、確か、火だ。

なら、水か、と、俺は氷塊を連発したが、当たりが悪い。

「かがめ!ラズーリ!」

とグラナドが叫ぶ。言うとおりにするやいなや、彼のウォーターガンが、俺の氷塊を繋ぎ、レースのように、敵の中心に集中した。

「ミルファ!」

グラナドは、ただ、名前だけを呼んだ。ミルファは、カッシーの盾の向こうから、女王に託された、弾を撃った。弾はうまく道を作ったが、閉じようとする力も強い。俺は飛び出して、魔法剣に後を追わせ、道を確保する。

「ラズーリ、避けろ!」

とグラナドが叫ぶ。

「構わない、このまま、放て!」

と、俺は彼を見た。見開いた琥珀の目が、まっすぐに「道」を見る。

「大丈夫、避けるから!早く!」

グラナドとレイーラ、鍵の二人が、意を決して、杖とペンダントを差し上げる。光に満ちた透明な光線、五色に彩られた矛先。見入ると全身の力が抜ける。

視界が二転三転し、爆音が響く中、俺は、「彼等」の声を聞いた。殆どは、声より音だった。だが、何故か、伝わった。微かな燻りと共に、見送る。

しかし、暗く淀んだ物は、何故か明るく穏やかな光を纏いだし、最後に、溶けるように去っていった。ああ、「帰る」のか。あるべき所に。己自身を返すために。と、妙な事を考えた。

我に返る。俺は、背後からファイスに支えられて、立っていた。

「無事か。また、無茶をする。」

「すまない。ありがとう。」

ファイスが引っ張ってくれたらしい。

周囲を確認したが、「体」は、倒れていた。血塗れで、何処が傷が解らない。だが、アダマントだった。ごく小さな、聞き取れるか取れないかの声で、俺の目を見て、何か話した。ファイスには聞こえたらしく、

「止せ。」

と言われていた。

グラナドが転送でやってきて、

「文句はお預けだ。あちらが優先だからな。」

と、レイーラ達の方を指した。

彼女は、ミルファとカッシーに支えられていた。シェードが、必死で声をかけていた。意識はあるようだ。

「直ぐに、連れて行く。お前達は、悪いが、歩いて抜けてくれ。」

指し示す背後には、壁が無かった。王の間自体は無事だが、先程通ってきた廊下の壁には穴が空き、扉はなくなっていた。グラナドは、レイーラとシェードだけを連れ、直ぐに転送で帰る。

入れ違いに、開いた壁から、そこから、人がなだれ込む。神官達と魔法官だ。

「応急処置を先に!」

ファランダとミザリウスが、支持を出しながら進んでくる。

「あちこち、崩れてるのです、気をつけて。」

と、ハバンロが答えて、案内に立っていた。

俺はファイスと、ミルファ達の所まで戻る。カッシーが、

「盾を出すタイミングが、ずれて。」

と言い、赤くなった右手を、神官に直して貰っていた。ミルファが座ったまま、銃を拾い上げる。俺が

「無事か?」

と聞くと、

「ううん、割れてる。」

と返事が帰ってきた。

「いや、銃じゃなくて、君だよ。」

真っ赤になったミルファが答える前に、カッシーが笑いだした。ファイスが、頭を打ったのか、と言ったので、余計に。

外から、声が響く。グラナドが、クロイテスとオネストス、ハーストンを連れてきたようだ。オネストスとハーストンは、怪我をしていたはずだが、その割に、足取りはしっかりしていた。

グラナドは、クロイテス達を、倒れているアダマントの方にやった。彼自身は、俺達の所に来て、労を労うと、ミルファを抱えようとした。

「え、歩けるわ。」

とミルファが言うが、三歩で膝から崩れた。

ファイスはカッシーに肩を貸し、俺は、グラナドとミルファの後から付いていった。


庭に出ると、光が眩しい。瞬きをする。血の通う闇が、俺の視界を、一瞬だけ覆った。





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