帳 璦の場合「女医の空回り」
「失敗した、私何してるんだろう? 必死になって京都まで来たのに……。祟目さんのメアドも聞かずに帰ってきちゃったよぉ~」
京都の迷宮が沈静化した、とニュースで見た直後に腐女子友達の見酒ちゃんにメールをした。
やり取りの中で東京、宮城の迷宮を沈静化させた二人組と最深部まで行った話や、祟目さんが怪我をしたけど、満足な治療が受けれてないと書かれていた。
私は道具一式をバッグに詰め、始発の新幹線に飛び乗った。
大江に着いたのは午後をだいぶ回っていたけれど、なんとか合流出来た。
衛生的とは言えなかったけど、消毒液を散布してカラオケボックスの一室でそのまま治療を開始した。
内出血も残ったままだし、ただ傷口を消毒しただけの治療に激昂しかけたけれど、心を落ち着かせて治療に集中した。
「痛みますから我慢してください。――ごめんなさい、痛いですよね、もう少しだけ我慢してくださいね」
内出血を絞り出している時に眉間に皺を寄せる祟目さんに、私は謝る事しか出来なかった。
いくら迷宮の怪我を理解していなくても、内出血の処置も満足にしていない医師に怒りを覚えた。
血を抜いた時に付けた切り傷にパッチを当てる。
単純な治療だし、本当は私じゃなくても出来る処置なのに。
全国の迷宮を沈静化させる為に奔走している彼がこんな扱いを受ける事が堪らなかった。
私はこの時に心に決めた。
次の迷宮の沈静化の時には現地に居ようと。
どうせ東京迷宮が沈静化して治療所も閉鎖されて、当直のバイトしかしていなかったしちょうど良い。
せめて治療系のバックアップは必要だと思ったし。
処置を終えて包帯を巻いて服を着せ直した。
処方箋と診断書を書いて、年明けまでの分の薬も渡した。
これで彼の怪我が悪化する事も無い筈、そう思うとやり切ったという感情で一杯に成る。
皆にも挨拶をして、私は当直のバイトに間に合うように急いで東京に戻った。
一人の、顔見知りとは言え、親しい訳でも無いシーカーの為に京都まで来た。
この事実だけで、祟目さんにアピール出来たはず!
東京迷宮で顔を合わす事も無くなった分、ここで取り返したはず!
そう満足して新幹線に乗って気が付いた。
「祟目さんのアドレス聞き忘れたよぉ~」
正直、泣きたくなった。
頑張ったのに!
格好良い女を気取って、颯爽と帰ってきてしまった。
治療に駆け付けた事に後悔も悔いも無い。
この後当直で貫徹二連続確定なのも承知の上だった。
なんで私はあそこで「困ったら連絡ください」とでも言ってアドレス交換をしなかったんだと、数時間前の澄まし顔の自分に説教したい!
本当に私、馬鹿なんじゃないの?
無情にも新幹線は横浜を越え、もう少しで東京に到着する。
「本当に、私の馬鹿……」