4 能力継承実験
謎のアルバイトから五日目、流石におかしいと感じた隼人は、再び例の研究施設「パラレル」へと足を運んだ。改めて来てみると、かなり人気のない場所に作られているらしく、ここに着く五分前なんて、人がほぼいなかった。扉を開けると、そこに立っていたのは一人の青年。銀髪で、真っ黒のぶかぶかなTシャツを着ており、ニヤニヤと悪そうな笑みを浮かべている。
「よぉ、あんたが黒崎って奴か」
「…俺の事を知っているのか?」
「知ってるも何も、俺の獲物だからなぁ!」
言い終わるのと同時に、青年の左手が凍りつき始める。
「異能力者か…!」
獲物、と言われた。つまり、ここに立ち止まっているという事は…。
「オラァッ!」
その叫びを聞くのと同時に、左方向へと飛ぶ。受け身も取れないまま倒れ込み、先程自分が立っていた場所を見ると、巨大な氷の塊が床に突き刺さっていた。
「やばい…、殺される…!」
咄嗟に思った事はそれだけだった。だが、こんな青年見たこともないし、会ったこともない。どこで恨みを買ったのか、検討もつかない。
「おいおい、もっと逃げろよ。もっと楽しませろよ、異能力者ァッ!」
立ち上がるのと同時に、今度は細かい氷の粒が無数に飛んでくる。腕で顔を庇うが、その腕に鈍い痛みが無数に走る。
「ふざけんな…! 俺は無能力だ!」
顔を庇いながらもそう叫ぶが、次に青年が発した言葉はあまりにも衝撃的なものだった。
「嘘だな。『風力操作』の能力者だ、お前は」
「なっ…! んなわけねぇだろ! 俺は正真正銘の無能力だぞ」
「話が分からねぇ奴だな。あの女から能力継承を受けて成功してんだからお前も能力者なんだよ! 分かったか?」
「能力…、継承?」
その言葉は、理解こそできないものの、何かとてつもなく嫌な予感がする。
「そう、能力継承。今は実験の段階だが、まぁ、もう完成段階と言っても良いらしいぜ。能力を他の人間に移す。まぁ、その途中で移す側の脳を弄らねぇとダメだから、移す側はその後植物人間になっちまうが、俺には関係ねぇ」
「……おい、最後の部分、本当なのか…?」
あっさりとその能力継承の内容を説明したが、気になるのは最後の部分。彼は隼人に白咲の能力を移したとか言っていた。もしそうだとしたら、白咲は今……。
「あぁ、ご察しの通り、あの風の女は見事に植物人間だ。放っておけば死んじまうんだろうし、今からお前も死ぬんだから、まぁ関係ねぇよなぁ!」
「この…、人殺し…!」
「おいおい、別に殺してはねぇぜ? お前も、気絶させて、あとは能力奪い取るだけだ」
能力…。そうだ、今は俺も異能力者なのか。それならやる事は一つしかない。
「いや、そうはいかない。ここで潰されるのはお前だ」
「あ? お前まさか覚えたての能力で俺に挑もうってか? 笑わせんなよ」
ケラケラと笑う青年を睨み付ける。だが、それと同時に頭上に気配を感じ、再び左側に飛ぶ。今度はしっかりと着地して顔を上げる。だが、その時には氷の粒が再び無数に飛んでくる。
「ぐっ…、畜生…!」
「ほらほら、どうした? 俺を潰すんじゃなかったのかぁ?」
「いや、策はある」
「覚えたての風起こしの能力か。そもそも攻撃的な能力でも無いのに、そんなもんで俺を倒せると思うなよっ!」
そして青年は腕を振る。それと同時にまた氷の粒が先程よりも大量に飛んでくる。
「そこだっ!」
だが、隼人はこれを狙っていた。氷の粒が飛んでくるのと同時に突風を起こし、粒を飛ばし返す。加減がわからず、かなりの強さの風を起こしたせいか、前に立っていた青年も踏ん張りが利かず、後方に飛ばされる。
「白咲…、こんな強い能力持ってたのか」
多分慣れればもっと強力な風だって起こせるだろう。そうなれば、車でも容易に飛ばせるような能力となる。白咲はそれを隠して、やむを得ない場合も最低限の力しか使わなかったのだろう。
「くそっ…、なんだ今の異能力は…、かなりの威力じゃねぇか…」
氷の粒の数々をもろに受け、後ろに吹き飛んだ青年が起き上がり、納得行かないような口ぶりで話す。それを見て、微笑を浮かべながら隼人も返事を返す。
「さぁ、来やがれ。これが白咲の異能力だ。お前はここで確実に俺に潰される」
「この野郎、調子にのるなよ?」
「来い、黒T能力者!」
「俺の名前はコードδ(デルタ)だ!覚えとけぇ!」
叫びながらコードδと名乗った青年は右手を握り、拳を作る。すると、その拳に炎が纏わりつく。
「なっ…、二つ目の異能力!?」
「そうだ、能力継承を使えば、いくつも能力を持つことが可能だ。俺は、この技術を使って全ての異能力を操る神になる!」
「ちっ、狂ってやがる…!」
「そう思うなら止めてみやがれ。この雑魚!」
「異能力にしか頼れねぇような奴は、こうするまでだ!」
そう叫ぶなり、隼人は駆け出す。自分に対して追い風を吹かせながら。強力な追い風により、走る速度はみるみる上がり、まばたき一つ程の間に、そこそこあった距離をゼロにまで詰める。
「はぁぁぁぁっ!」
そして、その勢いのまま、右の拳をコードδの顔に向かって突き出す。予想をはるかに上回る速度で迫って来た隼人を対処する余裕もなく、殴られた勢いでまたしても後方へと吹き飛び、声を上げることすらままならずに壁に背中を強打し、そのまま動かなくなる。
様子見ながら執筆、投稿してますが、結構余裕があるのでしばらくは不定期に更新していきます。三日以上空く事は無いです。で、安定して来たらまた定期更新とさせていただきます!




