2 衝撃は、疾風とともに
「…でね、先生がね、得意げに問題解くんだけどさ、私達にはさっぱりでねぇ」
辺りをオレンジ色が包み込む夕方。一見すると神秘的だが、毎日見ているとその価値も薄れてしまう気がする。その中を白咲が歩き、その右側半歩後ろを隼人が付いていく。これもいつもの事だけど。高校生活始まってまだ二ヶ月程だが、あまりにも早く慣れてしまったものである。
「あーあ、黒崎君も起きてたら良かったのに」
「んなわけないだろ。授業なんか聞くだけ無駄無駄。寝とくのが一番得だ」
白咲の言葉に適当に返事をする。一見すると冷たいようにも見えなくもないが、白咲は楽しんでいるらしいので良しとする。だが、こんな日常の中で、ふと異変を感じ取る。それは視界の隅の方に映り込んで来た転がるボールの姿。道路の真ん中へと向かうそれを追いかけるのは幼い男の子。そしてそれは死角の中での出来事なのか、男の子へと真っ直ぐに走って行くトラック。
「おいっ……!」
助けに行こうとするが、体が動かない。ここから全力疾走すれば、間に合うか間に合わないかの五分と五分。だが、仮に間に合ったとしても、男の子を助けきれずに自分も死ぬ。間に合わなければ結局男の子はトラックに轢かれて死ぬ。時間ってのはここまでゆっくり過ぎるものなのか。そう思う程に頭の中で物凄い速度で思考が飛び交う。だが、まばたき一つほどの時間で、全ての状況が一変する。一陣の風。と言うより突風。まだ体が小さな男の子は背後へと吹き飛ばされ、尻もちをつく。重たいトラックは何事も無かったかのように男の子がいた場所を通過する。ボールはどこかへと飛んで行ってしまった。
「…た、助かった…」
とっさに出てきた言葉がこれだ。なんとも情けないと自分でも思う。普段はのらりくらりと生きている隼人だが、実は正義感は人一倍強い。そんな隼人は、そんな隼人だからこそ、先程の風を起こしたであろう人物の姿を、白咲天音の事を、まじまじと見つめずにはいられなかった。
「…お前、風を起こす異能力か」
「ま、あんまりバレたくは無かったけど、仕方なかったもんね…」
どうやら白咲が異能力者だと言う噂は真実だったらしい。現に、今目の前で白咲は子供を一人救ってみせた。なのに、偉そうにするわけでも誇らし気にする事もなく、いつも通りの笑顔を浮かべる彼女が羨ましく、正直に言うと同時に妬ましかった。自分にも正義感がある。子供を救おうとした。なのに、異能力を持っているか否でここまでの差が生じる。これを理不尽と言わずにどう表現しろと言うのか。
「…ほら、帰ろ?」
「あ、あぁ」
そして、わずかな心の靄を残したまま、先程と同じように、白咲の右側の半歩後ろを付いて行く。




