18 動き出す暗い時
葉月高校附属小学校6年。その年が彼ら5人の運命の年となる。いつも通りに、いつもの時間に、いつもと同じ下校の時間のチャイムが鳴る。
「みんな、帰ろー」
先生の号令が終わり、ざわざわと帰宅する生徒でうるさくなった部屋で、一際大きな声で紅原は四人を招集する。彼女の言う「みんな」とはクラス全員の事ではなく、蒼神、黄山、風春、そして十河の事だ。
「今日は何する?何するの?」
「何もしなくても良いだろ。さっさと帰ろうぜ」
集まるなり口を開いたのは風春と蒼神。この頃は風春は活発な女の子で、蒼神は面倒くさがりな、だけど副リーダーのような立ち位置にいる男の子だった。
「十河は何したい?」
問いかけるのは黄山。彼はこの頃から変わらない。元気な男の子だ。そして、話を振られた十河は、白い髪の女の子で、性格はおとなしめ。特にこれと言った特徴は無いし、勉強、運動、遊び。何をさせても平均的だ。
「私は、なんでも良い、かな」
そう控えめに答える彼女だが、彼女はクラスの中一番平均的でありながらも、一番浮いている存在だった。十河雪は異能力者だった。とは言っても、火を出したり氷を出したりするようなものではなく、彼女の異能力は「再生促進」という異能力で、まだ小学生だからそこまで強力なものでは無いが、その内容は、傷の治りが普通の人間の3倍は早い、と言うものだ。
「なんでもって、それ一番困るやつじゃん」
不満げに返す紅原だが、決して不快そうな顔はしていない。十河は、あくまでも周りに合わせて来るタイプなのだ。なぜなら、十河雪は自分が他の人と違う事に負い目を感じているからだ。だが、もちろん紅原達はそんな事気にしていないし、他の三人ももちろん気にしていない。だから、ここのグループにいる間ぐらいはありのままの姿で振舞って欲しい。それが紅原の願いだったりする。
「じゃ、今日は駄菓子屋さんにでも寄ってこっか」
一瞬訪れる沈黙を、すかさず風春が明るく破る。結局その日はいつものような話しながら、みんなで駄菓子屋によってお菓子を買い、小さな公園で談笑しながらそれを食べた。ずっとこんな日が続く。ずっと五人で過ごせる。あまりにもそれが自然で、わざわざそう思うことすらなかった。
だが、それから約一時間後の事だった。いつものように五人で学校から帰っている途中、五人は事故に巻き込まれた。とは言っても、被害を受けたのは十河だけだった。左腕を骨折する怪我を負い、入院することとなったが、彼女の異能力により、2週間もかからないうちに完治する。四人はそう思っていた。だが、事はそう上手く運ばなかった。
「え、脳に?」
それは十河が入院してから約三日後の事だった。四人が十河の病室にお見舞いしに向かったのだが、そこに十河の姿は無く、紅原が看護師に話を聞くと、実は脳にもダメージを受けていたらしく、急にそのダメージが十河の体に影響を与えたと言うのだ。だから、緊急で別の設備の整った病院に移動した。だが、不思議なのは、どの病院なのか分からない、との事だった。そしてそのまま、十河の行方を知る者は居なくなった。
彼らが中学ニ年になって約半年が過ぎたある日、彼らは小学生だった時と同じく、四人で集まって帰っていた。だが、十河が居ない気まずさは誰もが感じており、どちらかと言うとぎくしゃくしている。誰も話さないし、誰かが話を振ってもすぐに会話が終わる。そして別れの挨拶は欠かさない。楽しいはずもないのだが、十河がいつ帰って来ても大丈夫なように、という思いだけは全員同じだった。そんな日が続いていた訳だが、その日も、何も楽しくない帰り道を四人は歩く。だが、それを待ち伏せるかのように、一人の男が彼らの前に立ち塞がる。灰色の長髪、スケスケの薄いサングラスが特徴的な男だった。その男は自らを「パラレル」と名乗り、まるで空気を吐くようにさらりとこう話す。
「十河雪はこちらで預かっている。脳が治る見込みはないが、君らの協力次第で彼女を治せるかもしれないのだが、どうかね?」
彼らに突然舞い込んだこの機会。これを逃せばもうニ度とチャンスは無い気がして、彼らは何も疑う事もなく首を縦に振った。そして、その足で彼らは研究施設へと連れて行かれ、その後葉月中学校で彼らを見た者はいない。




