1 非日常の兆し
「はぁ、疲れた…」
そう口にしながら朝の校舎の廊下を歩く一人の青年、黒崎隼人は高校一年生だ。黒い髪と鋭い目つきが特徴だが、性格は大人しく、先程の「疲れた」が口癖だ。身長は173cmで、部活もやっていない。なんとなく学校生活を送り、なんとなく卒業できれば、なんて考えているが、世の中そこまで甘くない。
「あ、黒崎君。おはよ」
そう声をかけて来るのは同じクラスの白咲天音。薄いピンクのロングヘアーと、いつも浮かべている笑顔が特徴的なクラスの人気者なのだが、不思議なことに隼人と仲が良い。クラスの人気者の天音がクラスでも大人しく影を潜めている隼人と仲が良いと言うのは隼人からすれば不思議極まりない話である。
「うっす、早いな」
「黒崎君もね」
「これ以上遅くなると入り口に人が密集して疲れるんだよ」
「あはは、黒崎君らしいね」
そんな他愛もない話をしながら教室に入る。数人生徒はいるが、今日はまだ少ない方である。白咲がみんなに挨拶するのを横目に見ながら自分の席に着き、そのまま机に突っ伏す。今日もなんの刺激もない一日が始まるのだ。気を張らなくても良い反面、微妙に退屈である。とはいえこれが普通なのだろう。だが、この学校では違う。なぜなら、白咲天音は異能力を持っているのだ。
異能力。別にあまり珍しいものでもない。100年前の2030年と違って、この地球の国々はあまりにも成長し過ぎた。そのため、気候、周囲の環境、価値観、遺伝。何が原因なのかはあまりはっきりしていないが、約30人に一人ほどの割合で異能力を持つ人間が生まれる。その中の一人が白咲天音だ。
「ま、あくまでも噂なんだがな」
ぼそりとこぼすが、もちろんそれを聞く者はいない。はぁ、と突っ伏したままため息をつき、目を閉じて本格的に睡眠を始める。何か異能力をガンガン使うような事件でも発生しないかね、と考えながら。
「…さき君…、黒崎君…、黒崎君…!」
「…ん?」
ゆさゆさと身体を揺さぶられる感覚に目を覚ますと、次に聞こえるのは自分の名を呼ぶ声。あぁ、6限目もがっつり寝てたのか。
「悪いな、起こしてもらって」
「もぅ、あまり手間掛けさせないでよね?」
相手はもちろん白咲だ。というか学校では白咲以外とはほとんど話したりしない。
「…ふぁぁ…、今日も疲れた。帰るぞ白咲」
あくびをしながら椅子から立ち上がり、荷物なんてほとんど入っていない鞄を持ち上げて教室を立ち去ろうとする隼人の腕を、ガシッと白咲が捕まえる。
「待って」
「ん? どうした、悪いが俺はノートなんか取ってな…」
「いや、そんな事じゃないの」
隼人の言葉を遮って話す白咲の目は、まさしく真剣そのものだった。
「…なんだよ、珍しいな」
その真剣さに押されて思わず言葉が詰まりそうになるのを抑えて話す。一体何を言われるのやら。ここまで真剣な白咲の姿なんか見たことがない。
「……あの…、その…、いや、やっぱりいいや、ごめんね。早く帰ろ?」
「ちょ、絶対なんかあっただろ、おい!」
意味ありげな白咲の言葉は、微かな疑問を残すだけに終わった。だが、彼女がそう言うのならそうなのだろう。ま、いいか、と軽い気持ちで流してゆっくりと白咲の後を追いかける。やっぱり、今日もなんの変哲も無く一日が終わりそうだな、全く。
久しぶりの投稿です。前回と違い、今回は週一での投稿にしようと考えています。その分ペースは遅くなりますが、よろしくお願いします!




