#1 死の連鎖
ああ、おれはまた死ぬのか・・・
そこにはすでに生きる希望を失った一人の人形のような男が立っていた。
「それじゃあ行こうか!全員でこの子を護衛しながら街へ帰るぞ!」
そう、このいかにも人が良さそうなのがこの世界の主人公だ。そして、俺はこの先の特定の出来事で死ぬ。
護衛をしていた子を守り自らの命を捨てて守る・・・確かに良い死に方だ、決して自分の生き方に悔いはない、だが。もし俺がこんな役目をしなくて良いなら、俺はこの場から逃げ出したい・・・でもそれはできないこと、俺の行動は誰かによって強制させられている。人が良さそうに勝手に笑顔になり、自分の性格とは全く違う性格をしたり・・・この世界は色々とおかしい。そして一番謎なのが前世の生き様をしっかりと覚えているということ・・・・・・
そしてある出来事、が起こる地点に差しかかった・・・
主人公たちが歩いていると目の前の草むらから、突如大きな狼のような形をした魔獣が出てきた。その魔獣の口には赤い人間の血のようなものが付いている。
「なぜだ?!なぜ、この地域に四天魔獣がいるんだ!おかしい、普通は地上に現れることなんてないのに!」
ああ、また主人公がいつもの台詞を・・この台詞を何回聞いたことか・・・
もうすでに生きる心地をなくしていた一人の男が心の中で思っていた
そろそろだ・・・・
すると男の心情とは真逆にあることを言った。
「お前たち!早く、ここから逃げろ!ここは大丈夫、俺が食い止める!」
本当は俺だってここから逃げたい・・・でもこれが俺の仕事なのだ。
「だめだ!お前も一緒に帰るんだ!一緒にこの世界の魔物を倒すと言っただろう!」
そこには目の前の絶望にも屈せず仲間思いの一人の主人公が立っていた。
「いいから!早く行け!お前たちはこの魔獣を倒すことができない!俺一人ならまだ勝てるかもしれない!」
ほんとは無理なのだ、こんな魔獣を倒すのは・・・
「くそ、絶対に生きて帰って来いよ。絶対だぞ!」
「ああ、こいつは行動速度遅いからな、弱らせて隙をみて逃げるさ!」
その無邪気な笑顔もただの作り笑いだ。
「じゃあな」
「ああ」
ああ、行ってしまった。彼の後ろ姿を見るのはこれで最後か、まあ生まれ変わったらまた会えるか。
もう、死ぬことさえ怖くなくなった自分がいた。
「はは、これが死を目の前にする感覚か。こいよ・・・四天魔獣、よく待っていてくれたな。ここからは俺とお前の一騎打ちだ。」
すると今までびくとも動かなかった四天魔獣が何かの反動で動き始め、その怒りと憎悪が混じったような咆哮をしながら襲いかかってきた。だが反面、もう一人異変が起きていた者がいた。
「な、なんだ自由に動ける。あの縛られていた違和感も何もない。これが本当の自分・・・か」
すでに目の前には大きな爪を振りかぶって襲いかかる四天魔獣がいた。その攻撃を間一髪でかわし大きく後ろに後退した。
くそ、さすが四天魔獣。これじゃ倒せそうにもないな。
あ、自由に動けるならここから逃げることも・・・ダメだ、それはできないな。ここで逃げたらあいつらたちの匂いをたどって襲いかかるかもしれない。
「やっぱりお前を倒さないとダメそうだわ、せめて倒せなくても撃退まではもっていく、いくぞ四天魔獣!」
四天魔獣はまたもや大きな咆哮をしながら男にまっすぐ突進してきた。
男はその攻撃を避け片手に青い剣をもち、走りながら呪文を詠唱していた。
「炎の神スルトよ我に力を与えたまえ!」
男はこの世界での上級職である魔法剣士であり、その中でも数人しかできないという走行詠唱および神の力を借りることを可能としていて、男はスルトの力ともう一つの神の力を借りることができていた。神の力にはたくさんの種類があり歴史的な神や神話の神まで色々な力がある。その中でも最も名高い神は力を借りることが難しく、困難な契約を完了させなければならなかった。
詠唱に入ると四天魔獣の足元と頭上に大きな魔法陣が形成された。そして、詠唱が終わり男は左手を四天魔獣に振りかざし呪文の名前を口にした。
「ファイア・ウォール!」
すると四天魔獣の、頭上と足元から炎が湧いて出た。それに四天魔獣は避けることができず、炎に巻き込まれた。それだけでは男は攻撃をやめず、燃えてる四天魔獣に進路を向け第二の走行詠唱に入った。
「炎の神スルトよ 我の剣に 力を与えたまえ!」
「ファイア・エンチャント!」
第二詠唱が完了するとそこには赤いオーラの纏った(まと)剣が誕生していた。男は燃えてる四天魔獣に容赦なく斬りかかるが、四天魔獣の皮膚は硬かった。
「くっ・・どうすれば・・・」
男は後ろへ大きく跳躍し、回避態勢を取っていた。すると、四天魔獣は男が予想だにしない跳躍をし不意に接近を許され、男の体を大きく吹き飛ばした。
「うっ!・・・」
後ろに吹き飛ばされた男は木に体を激しくぶつけ、血反吐を吐いた。
「やはり、俺では無理なのか・・・死ぬことを義務ずけられてここから打開することは・・・・・」
四天魔獣はゆっくりと弱った男を見ながら歩いてくる。その瞬間、男には死の感情が芽生えてくる。
「いままで、ここで死んだ俺たち・・・」
男の頭の中では自分と同じ顔をした者たちがこちらを向いてくる・・・・・・一人は笑い、また一人は睨み全ての感情がこの者達から伝わってくる。だが、その中に一人だけ他の者とは違う表情をしたものがいた。
「お前、泣いてるのか?」
そう、これは自分の感情であった。
ああ・・また、何もできなかった。無駄な死をしてしまった。この繰り返される惨劇を・・・
その時男の脳内では今までこの獣に殺されていた自分たちがフラッシュバックしていた。
「だめだよな、もうこんなところでずっと死んでいては・・・この死の惨劇を終わりにしないと、これ以上俺を殺させやしない!」
根元に倒れていた、男は全身が今までにない痛覚をも感じながらも剣を杖のようにし立ち上がる。
「これはな・・・いままで俺の死の惨劇があってからこそ成し遂げられる技だ。もう死ぬのは怖くねぇ・・・覚悟しとけよ獣ふぜいが!」
四天魔獣は何かを察したのか突如速度を早め男を襲う、その攻撃を男は颯爽に避け剣を四天魔獣の目に刺す。
「ぐおおおおおおお!!」
四天魔獣の皮膚は硬質だが目は硬質ではなかった。魔獣は今までの威勢の良い咆哮ではなく痛みに苦しんでいるような咆哮で叫んでその衝撃で少し怯んでいた・・・その瞬間を無駄にせず、男が詠唱を始めた。
「嵐の神オーディンよ・・・我が身を供物とし力を与えたまえ!!」
男は剣を獣に刺したままにしていて、両手で詠唱をしていた。手の先からは紫色の魔法陣ができている。その魔法陣はスルトの時とは全くの別物であり、明らかに威力が桁違いの魔法であった。怯みからさめた四天魔獣はすぐに男への攻撃を実行に移そうとしたがもう遅かった。
「これが今の俺の全力だ。ラグナロク!!!」
その瞬間、男の手の先にあった魔法陣が消え何処となく魔獣に雷の嵐が放たれるのであった。その攻撃方向は予想を立てることすらもできず、魔獣は雷にただ打たれるだけとなった。あまりの魔法のうえ男は血反吐を吐きそこで意識を失った
それから少し時が経ち・・・
「はっ!」
男が目を覚ますとそこには焼け野原になっていた森の姿があった。四天魔獣はそこから消滅したか、撃退したのかわからず痕跡も一つも残っていなかった。
「やった・・のか。これを俺が全部・・・・」
辺りを見回し、再度自分がやったことを確認する。だが安堵する暇もなく男は横たわっていた。男はあの時の魔法で神に体を供物として捧げている。すでに男はもう長くないのだ・・・
「あぁ、やはりこの死の惨劇は止められなかったか・・・だがこれで少しは次の俺に生きる希望をあたえててやれたかな・・・」
すると足の先端から綺麗な光り輝く粉末状のものが出始めた。だが、死を前にして男は笑っていた。
「はは、これが死を前にして思う感情かよ・・」
男がそう思っているうちにすでに胸の部分まで消えかかっていた・・・
「さて、そろそろかな。次の俺頑張れよ。俺はここまでみたいだ、何とかして死の惨劇を止めてくれ。あ、そういえば・・・俺の名前ってなんだっけかな・・そうだみんなからセリスって呼ばれてたんんだった・・まあ、今さら名前なんてどうでもいいか・・・・」
・・・・
男の声は止まりそこにはただの戦場のあとの焼け野原しか残っていなかった。