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異世界に行ったら僕の居場所はありますか?  作者: 大石 優
第2部 第3章 ゲートキーパーの贖罪
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第3章 ゲートキーパーの贖罪 6

 レオ王子と決めつけられているのは納得がいかないが、マスターの『まだわからない』という言葉に、不安と期待が入り混じる。

 魔法は使えなくともやっぱり王子と言う意味なのか、はたまた僕がまだ魔法を使える可能性が残されていると言う意味なのか。ひょっとしたら後者なのではという期待に身体が反応し、期待に胸が躍る。


「山王子様は、魔法に詳しい者に教えを受けられましたか?」

「魔法なら、カズラさんとアザミに……」

「ああ、知識という話ではなくて……。実技的な、クローヌへの魔力の乗せ方という意味でございます」

「え、でも、意志を集中させるだけでいいって……」

「また、適当なことを……」


 マスターは軽くため息をつきながらカズラの方を睨んだが、彼女も負けずに睨み返す。そして、強い口調でマスターへと反論する。


「この歳でも魔法が使えないなら、普通は魔力がないって考えるでしょ。外界から来たなんて事情も知らなかったし……。

 それに、あたしは魔法の仕組みを聞かれただけで、撃ち方を聞かれたわけじゃないのよ。魔法教官じゃあるまいし」

「魔法教官?」

「撃ち方をいくら教えても魔法が使えない場合、魔力がないのか、それとも発動方法に問題があるのかわかりません。それに魔法が使えていた者でも、なにかの拍子で使えなくなることも時折あるのですよ。そんなときに、魔法の発動のさせ方を指導する専門家が魔法教官でございます」

「私も小さい頃に習いました。でも、やっぱりダメでしたね、私の場合」


 そんな人物がいるのなら、向こうに居るうちに紹介してもらいたかった。

 だが、外界人ということを隠していたわけだし、あっという間の半月間でそんな暇もなかったか。


「そして魔法と言うのは、そうですね……。この世界で例えるなら、自転車のようなものなのですよ」

「自転車って何よ」

「私にもわからないよ」


 カズラとアザミは、興味深そうな表情で顔を見合わせている。

 だが、『今は許してくれ、後でゆっくり説明してやるから』と心の中で謝り、マスターの言葉に集中する。


「魔法は、いきなり使えるほどには簡単ではございません。

 親から習ったり、友人の撃つところを見たりしながら、幼いうちに身体で覚えていくのです。そして一度使えるようにさえなってしまえば、何でこんなことができなかったのかと思うほど、簡単に扱えるようになるのが魔法。

 そしてその先、一生付き合っていくわけですから、その使い方を忘れることもありません――」


 なるほど、マスターが自転車と言ったのはそういう意味か。確かに納得のいく例え方だ。自転車に乗れるようになるために、何度も転んで傷を作りながら練習したのは小学生の頃だっただろうか。

 しかし、向こうの世界にない自転車を例えに出すということは、マスターもこちらへ来てから練習したに違いない。


「――ですが本来、魔法の発動は繊細なものなのです。

 ですから、何も知らずに外界へ来た者は大抵、こちらでも魔法を使おうと試み、失敗。そして原因がわからず試行錯誤を繰り返し、そのうちクローヌへの魔力の乗せ方を見失ってしまうのでございます」

「そういえばおとぎ話でも、外界へ飛ばされると魔法を取り上げられるって言いますよね」

「それは、まさしくそうなった者が広めた噂かもしれません、王女様」


 確かにその話は僕もチョージから聞いた。

 そしてそれが、僕が魔法を使えない根拠だとも言った。

 その時は、大の大人がおとぎ話を信じるなんてと呆れたものだが、こうして話を聞くと、まんざら見当違いではないのかもしれない。


「魔法とはそういうものですので、山王子様がご滞在中にお使いになれなかったからといって、魔力がないと判断するのは早計かと。本当に魔法が使えないかどうかは、もう一度向こうへ行って、魔法教官に教えを受けた後でないと判断致しかねます」


 自分が王子のはずなどないと思っていたのに、反論は全て論破され、その気になりつつある。そしてそう考えると、界門を渡る直前にロニスを吹っ飛ばしたあの魔法は、ひょっとしたら無意識の内に僕が放ったのではないか。そんな考えも頭をよぎる。

 そうなるともう、自分自身の気持ちに歯止めがかけられない。

 一刻も早く界門を渡りたい。そして向こうで魔法教官の教えを受け、魔法が撃てるかを試してみたい。

 マスターは元々その気にさせるのが上手な人だが、今回も完全にマスターの手のひらの上で踊らされているようだ。


「次はいつ向こうへ行けますか?」

「最短でしたら一ヶ月半ほど先となりますね。山王子様がレオ王子かどうかの判断もそれまで持ち越しですな」

「一ヶ月半後か……」


 気分は最高潮にまで高まっていたが、思った以上に先の話で少し静まる。

 魔法はお預けだが、ケンゴの安否確認も一ヶ月半のお預けだ。その間にできるのは無事を祈るだけなのか……。




「――さて、山王子様が王子候補者だとご理解いただけたところで、仕上げと参りましょうか。もう少しですので、お付き合いのほどよろしくお願いいたします」


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