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異世界に行ったら僕の居場所はありますか?  作者: 大石 優
第1部 第5章 ソウガ=ロニス
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第5章 ソウガ=ロニス 3

「――お父様はお兄様なのに、どうして国王様じゃないの?」


 昔尋ねられた、娘の何気ない質問。

 いくらでもごまかす方法はあった。しかし、あの時は言葉が見つからなかった。

 そして、過去の辛い記憶を蘇らせた、可愛い我が娘のこの一言で……。



 私の魔力は、王族としては並だ。

 それは即ち、この国の民としては一、二を争う魔力量だということでもある。

 もちろん、王位継承には何の差し支えもない。

 第一王子として何不自由なく育てられ、将来受け継ぐ『国王』としての在り方も日々叩き込まれていた。

 だが弟の尋常ではない魔力が目覚めた時、その立場は一変する。

 千年の歴史においても、五本の指に入ると謳われたその力。その尋常ならざる力を目の当たりにした時、父は私に魔法の使用を禁じた。


 ――兄は魔力不足のため、王位を継承するのは弟とする。


 その筋書き作りのためだった。

 しきたりに乗っ取れば、王位継承者は私だ。受け継ぐに充分な魔力も備えている。

 しかし父は、弟の強大な魔力をもって、国威を発揚させたかったらしい。

 悔しかった。自分の魔力の少なさを呪ったりもした。弟も恨んだ。

 だが魔力絶対主義のこの国で、この魔力差では諦めるしかないと自分に言い聞かせ、憤りを鎮めた。

 いっそのこと、魔力など持たずに生まれていれば、すんなりと諦められただろうに……。



 胸にしまい込んだ悔しさは、弟が王位に就いて再び蘇る。

 周囲の権力者の入れ知恵を真に受ける、国王となった弟。

 そして、より強固な魔力絶対主義を望む父。

 民衆の我慢が限界に達するのも、時間の問題だった。

 失政に次ぐ失政。

 耐えかねた民衆は各地で暴動を起こす。しかし弟は、それを力でねじ伏せる。

 自ら弟への助言も何度か試みた。しかしそれも、投獄により口を塞がれる。

 そんな暴君政治は許されるはずがないし、続くはずがない。いずれ終焉を迎える、弟が失脚するその日に。そう考えていた……。


 だが予想に反し、弟の政治は貴族や有力者からは好評を博した。

 強い魔力を持つほどに恩恵のある魔力絶対主義。彼らが支持しないはずがない。

 この国は、一握りの権力者によって動いている。彼らが非と言わない以上、その政治は是だ。むしろ、より一層の支援を受けるに至った。

 そして今なお魔力絶対主義の名の下に、魔力の乏しいものは迫害され、魔力の強い者に搾取され続けている。


 彼らにとって民衆は、国益を生み出すための道具にしか思っていない。

 そんな考えは間違っている。そう思いながらも、私の力ではどうすることもできない。

 国王の兄なんて、権力があるように見えてその実、発言権すら与えられていない。

 自分が王位を継承していれば……。そんな思いだけを募らせていた。

 そんな気持ちに、道しるべを示してくれたのがアジクだ。


 ――私の娘を国王に据える。


 それがアジクの案だった。そしてそれは、私の大願でもある。

 魔力絶対主義を排除するには、やはり権力が必要だ。国王の父となれば、発言権は現状の比ではない。

 アジクもそのために尽力してくれている。

 ほんの気まぐれで取り立てたが、ここまで力になってくれるとは正直予想外だ。

 彼のお陰で私の言葉も随分と力を持つようになり、今日の謁見だってすんなりと承認された。

 この分なら国王の父となる日も、そう遠くないかもしれない。


「…………様。ロニス様」


 アジクの呼び掛けに、我に返る。


「すまん、少し昔のことを思い出していた……」

「そうです、忘れてはいけません。本来はロニス様が国王の座に就くはずだったのです。そうすれば国民だってこんなに苦しまずに、そして可愛いお嬢様からもあんなことを言われずに済んだのです」


 アジクの言葉に、士気が高められる。

 そうだ、私には弟の悪政から国民を救わなければならないという使命がある。

 そのための第一歩として、我が娘を王位継承権の最上位に据えなければならない。その上で弟を王位から引き摺り下ろせば、国を変えられる権力が手に入るのだ。

 そして、その策略をすでにアジクは思い付いているのだろう。


「ああ、そうだな。国民の生活のためにも甘い考えではいかんな」

「ええ、そうです。そのために精鋭部隊だって編制したのですから」


 強大な魔力を持つ国王に反旗を翻すには、その魔力対策が不可欠。

 そのために必要だとアジクに言われ、防魔服(・・・)だって用意した。

 希少な魔繊維(・・・)を織り込んだこの対魔法装備は、一着につき一人が一生遊んで暮らせる程に高価な代物。それを十着以上もだ。

 さすがに苦慮したが、それも大願のため。

 そしてその全身黒ずくめの防魔服を着込み、アジクは陣頭指揮を執っている。


「それではアジク、君はこの次はどうすれば良いと考える?」

「もし仮に、王女様がこのまま素直にお屋敷にお戻りになられたら? そして本当はご病気でもなんでもなかったらどうなりますか?」

「それは当然成人式典を経て、将来的には王位を継承するだろうな。それでは困るのだが……」


 先ほどまで言質を取ったと浮かれていた自分。

 やはり私の考えは甘すぎるのだろうか。

 こうしてアジクに別な可能性を指摘されて、一瞬で暗雲が立ち込めてしまった。

 その流れでは困る。国王の座には、我が娘に就いてもらわなければ困るのだ。

 でなければ私の発言力など、たかが知れたまま。この国を動かすことなど夢のまた夢となってしまう。

 焦りを感じ、アジクに次の策を催促する。


「で、君は次の策を思いついているのだろう? 教えてくれ、娘を王位に就けるためにはどうすれば良いのだ」


 再びアジクは顔を耳元に寄せて、小声で囁く。




「――キシシシシ……王女様に亡き者になっていただくんですよ」


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