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Dual Moon

Dual Moon 大魔法 その後

作者: ヴィセ

これはDual Moonのその後になります

ネタばれありなので、本編を先に読んでから、こちらをどうぞ。



 大魔法が発動され、世界が二つに分かれた後、ヴィーザ達は急いでサヴァンの所へと駆けつけた。


 塔に戻った彼らが見たのは親衛隊に手ひどくやられ、倒れているサヴァンの姿であった。




「サヴァン、大丈夫か?」


 傷を負い、気を失っているものの命に別状ない様子で、気付けのクスリを飲ませると程なく意識が

戻ってくる。




「……みなさん……どうしてここに?」


 サヴァンは何故ここに皆が集まったか不思議そうだ。


「親衛隊がサヴァンを痛めつけたって言ってたから、心配してやってきたのよ」


 テュリが傷を手当てしながら答える。


「いたた……。そうだったんですか」


 傷にクスリがしみるのか、サヴァンは顔をしかめた。




「私達の為にこんな目にあわせてすまなかったね」


 ヴィーザが謝る。


「いいえ。あの二人の来る事は事前に水晶が教えてくれました。さすがに今回は駄目かと思いましたが……」


 こうなる事は分かっていたとサヴァンは苦笑いをもらしている。


「しかし私こそ貴方たちの行き先を……」


 ザヴァンは自分の方こそヴィーザ達に申し訳ない事をしたと、悔やんでいた。


「アウインの“術”に抗える者などいないよ」


 魔界随一の術師が相手では分が悪い。


 そう言ってヴィーザは気に病む事はないよ、と微笑む。




「だがあの二人が来ると判っていながら何故逃げなかったのだ?」


 サヴァンに“気”を送りながらラドゥが尋ねた。


「……逃げても遅かれ早かれ彼らは私を見つけ、やって来たでしょう。それに下手に逃げ回って人間に迷惑を掛けてはいけないと思っていましたから」


 魔王の命令を遂行するためなら親衛隊は手段を選ばない。


 前王の頼みで人間を救う魔法を創ったサヴァンに対し、人間を盾にしてヴィーザ達の行方を聞きだそうとする事は容易に想像できた。


「そう、人間といえば“大魔法”が無事発動したよ」


 ヴィーザは事の顛末をサヴァンに話して聞かせた。




「そうですか。これで前王の願いは叶えられたと……」


 サヴァンは静かに目を閉じ、在りし日の前王を思い出していた。




「でもこれからどうするの?私達、裏切り者として指名手配確実よ?」


 手当てを終わり、片付けをしながらテュリはヴィーザ達にこれからの身の振り方を聞いた。


「魔族を裏切ったお尋ね者……。まあこうなる事は覚悟していたけどね」


 小さくため息をつき、考え込むヴィーザ。


「そうだな。現王に逆らったのだからな」


 ラドゥも腕を組んで考えている。




「まず、私とラドゥは、私たちの一族が“追放”という形でたぶん処理するだろう。それで一族への類は及ばないはずだ。しかし、テュリの場合……」


 ヴィーザはラドゥと顔を見合わせる。


 自分たちは初めからそのつもりで行動してきた。しかしテュリは……。




「そうだな。巻き込まれた形だからな。テュリ、猫村に帰るなら今のうちだぞ?」


 ラドゥはテュリに村へ帰るように促す。


 だがテュリは、「いやーよ!帰らないわ。私はヴィーザ達に付いて行くの」と、きっぱりと言い切り、後ろを向いてしまった。


 しかしそう言ってはみたものの、テュリは(追い出されるのではないか?)と心の中ではドキドキしていた。


「別に私は構わないが。……ラドゥは?」


「そうだな。テュリがそのつもりなら……」と、言う二人の返事にテュリは飛びつかんばかりに喜んだ。




「ヴィーザ、ラドゥ、テュリ。もし貴方たちに異存がなければ私と一緒に逃げませんか?」


 突然、三人に向かってサヴァンが言い出した。




「一緒に逃げるって……。どこどこ?」


 テュリは眼を輝かせて答えを待っている。


「逃げる所なんてあるのかい?」


 ヴィーザは(そんな所があるのだろうか?)と訝る。


「見当がつかんぞ?」


 ラドゥも何処へ行くか思い浮かばなかった。


 そんなヴィーザ達をいたずらっ子の様に見回してサヴァンは答える。




「マージュの住む世界へ」




 そう、サヴァンは逃亡先にマージュがいる「人間界」を選んだのだった!


 絶対に魔王の追っ手の届かない場所……。


 大魔法を創った彼ならではの「逃亡先」であった。






 逃亡先が決まり、さっそくサヴァンはヴィーザを助手に魔法の完成を急いだ。


 出来上がるまでの間は塔全体を強力な[魔封印]で被い、魔王の追っ手の目を欺く。


 更にヴィーザが結界を施し、流石のアウインでもこの塔を再び暴き出す事は不可能に近かった。




「サヴァン、これは◇◇◇だから、XXXの方が……」


「しかしXXXには少しムリが……」


「だったら□□□はどうかな?」


 といった魔術理論の専門的な会話がラドゥとテュリの見守る中、頻繁に交わされている。


 ラドゥはまったく判らない訳ではないが、魔術を専門に勉強したわけではなかったので力にはなれなかった。


 そしてもっとも退屈していたのはテュリである。




「だ・い・ぐ・づ~~!!」


 テュリは結界の為に塔の外に出る事ができず、毎日ラドゥを相手に格闘技を磨いて過ごしていた。


 が、それにも限界がある。


 事あるごとに猫の姿でラドゥに文字通り、「噛み付いて」困らせていた。




「身体が鈍るよ~~!外に出たいー―!」


 そう言ってラドゥの腕を抱え、噛み付くわ、蹴るわで真っ白な猫は大騒ぎをしていた。  


 このくらいはラドゥにとって痛くも痒くもない。


 しかし、ちょっとだけテュリに意地悪をしたくなる。




「テュリ……。だからあの時、私は村に帰るように言っただろう?」


 この一言をラドゥに言われると、テュリは暴れるのをピタッっとやめた。




「う……ラドゥの、バカー!」


 そう言うとテュリは泣きながら屋上に駆け上がっていく。


「ふう……。だいぶんストレスが溜まっているようだな……」


 ラドゥはそんなテュリの後姿を苦笑いをして見送った。






 そして創り始めて数ヵ月後。研究も大詰めを迎える。




「……っと、これで完成ですね」


 サヴァンは出来上がった魔法を一冊の“本”に収め、ヴィーザに手渡した。  




「意外と早く出来たね?普通はこんなに早くは出来ないと聞いていたけど……」


 手に取った“本”をパラパラとめくりながらヴィーザがサヴァンに尋ねた。


「そうですね。例の“大魔法”の時は100年かかりました」


「100年……。それからしたら今回は数時間で出来たに等しいね」


 感心しながらサヴァンを見る。




「今回の魔法はヴィーザという、魔術に長けた魔族が発動するのが判っていましたから、その分早くできました」


 サヴァンは(ふふふ)と笑っている。


「という事は今回は特に早かったと?」


「ええ、それにあの大魔法は特別ですよ。魔力の無い人間が発動する物だったので、特に時間がかかりましたね」


「そうだったのか」


 ヴィーザは例の大魔法を発動するために描かれていた魔法陣を思い出していた。


 息苦しいほど濃密な魔力を生み出すあの場所がなければ、とても人間に扱える魔法ではないことも。




「まあ、今回は世界を分けるというほど大きな物でもありませんでしたし、何より発動するヴィーザの魔力、魔術理解力に頼る部分が多くて…。逆に詠み手がヴィーザでなかったらもっと時間がかかっていたでしょう」


 椅子にもたれてサヴァンは天井を仰ぎ見ていた。




「そろそろテュリの退屈も我慢の限界にきているようだし、お守りをするラドゥがかわいそうだ」


 ヴィーザは待つのに限界がきているテュリに振り回されているであろうラドゥを思い描き、クスッっと笑う。


「ラドゥ救出の為にも早速発動しよう」




 “本”を片手に部屋を出ようとするヴィーザを、「いいえ、今度の満月まで待ちましょう」と、サヴァンは止めた。


「ん?どうして?」


 ヴィーザは意外な言葉に振り返る。




「すこしでも魔力の強い時の方が、ヴィーザに掛かる負担が少なくてすみますから……」


 心底、申し訳なさそうにサヴァンはヴィーザを見ている。


「サヴァン。これは……そんなに魔力がいるのかい……?」


 少し顔を引きつらせながらヴィーザは本に視線を落とした。







 満月の夜がやってきた。




 夕闇にまぎれてヴィーザ達は悠久の塔を後にする。


 そして以前聞いた、マージュが住んでいた村の近くまでやってきた。


 やはりというか当然、人間の姿は無い。




 真円の月が放つ蒼白い光が小高い丘の上に立ち、静かに魔法の詠唱をするヴィーザの影を落としている。


 その姿をラドゥたちは少し離れて見守っていた。




「ねぇ……ラドゥ。ヴィーザの言っている事解る?」


 テュリはチンプンカンプンの言葉を、すらすら発するヴィーザを感心して見ている。


「まあ、少しは……。だがあそこまで澱みなくあれを詠む事は、専門に勉強をしないと無理だな」


 テュリとラドゥは詠唱の邪魔にならないよう、小声で話す。




「へぇ、そうなんだ?」


「ヴィーザは元々、魔術が専門だからな」


「それが何故、剣を手にするようになったの?」


 テュリはヴィーザが剣を持つようになった経緯を知らなかった。


「それは……」


 自分から言って良いものかラドゥは躊躇する。




「ヴィーザ本人が話す時まで待っていてやって欲しいんだが……」


 ラドゥはそう言ったものの、あの“過去”をヴィーザが話すかどうか分からなかった。


「……無理に聞いてはいけない事なのね」


 テュリはラドゥの様子からそう判断し、頷く。




 やがてヴィーザが最後の一言を詠み終わると一瞬、辺りが揺らいだように見えた。


 そこに居た全員が軽い眩暈のような物を覚え、目を閉じる。




 そして再び開いた瞳には、さっきまでと何も変わらない風景が写っていた。




「ねぇ、失敗したんじゃない?何も変わっていないようだけど……」


 テュリが変わらない風景を見てサヴァンに尋ねる。


「いや、成功だ」


 ラドゥが村のある方向を指差すと、さっきまで暗かった家々に明かりが瞬いていた。




「ヴィーザ、大丈夫ですか?」


 サヴァンが“本”を手にしたまま座り込んでいるヴィーザに駆け寄り、声を掛ける。


「ほんと。大丈夫?」


「立てるか?」


 ラドゥはヴィーザが立ち上がるのに手を貸す。




「ふう……。ちょっと力を使いすぎた……かな?」


 少し疲れた表情を見せるヴィーザ。


「でも大丈夫だよ。すぐに元に戻る。なにせ今宵は満月だからね」




 そう言うと成功した喜びと、無事責任を果たした安堵にヴィーザから笑みがこぼれた。




[大魔法 その後]


FIN

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