レアモンスターは魔王級?
自宅まで帰ると、汗ダクの身体をシャワーで軽く流してから自室でログイン準備をする。
ギアを装着する前に、沙羅と亜里沙からの返事が届いた。
二人とも乗り気でそのまま、ログインするとの事なので、ゴーフィンの屋敷で集まることにした。
目を開けると、最後にログアウトした屋敷の自室の天井が目に入る。
アバターの体の動作を確認をして、所持品の確認を行う。
武器の太刀、短刀2本の刃を確認する。
刃こぼれも無く、感触も違和感がない為、消耗はしていない様だ。
薬品類は少し減っている為、製作して鞄へ入れる。
「これでいいかな?」
所持品の確認も済んだし、武具の状態も確認したタイミングで、サリアとサラがログインしてきた。
「二人共は準備、大丈夫?」
「私は毎日、ログアウト前に補充しているのでこのまま、向かえますよ」
「ユエ、すまないが私の盾の修復を頼めるか?」
「了解」
俺はサラから盾を受け取り、修復を開始する。
【手動修復】と【簡易修復】があり、【手動修復】は名前の通り、素材とプレイヤー自らが手作業で治すのだが、時間と手間がかかる為、職人プレイヤーでも滅多に使用しない。【簡易修復】は素材だけあればスキルとして瞬時に修復出来ると言うか多分、プレイヤーが知る修復は【簡易修復】だと思う。
では【簡易修復】があるのに何故、【手動修復】が存在するかと言うと素材の効率と耐久性度の向上にある。
【簡易修復】では【手動修復】の2~3倍の量の素材が必要で、耐久性度も100のままであるが、【手動修復】は素材が少ない事と耐久性度が100を超えるのだ。
長期戦闘やダンジョンに潜る際は【手動修復】の方が武器が長持ちして物凄く恩恵があるのだが、職人プレイヤーしか知らないことだと思うので、基本的なプレイヤーはメイン武器+サブ武器と予備武器の3種類持ち歩くと言う。
「サラ、時間が無いから【簡易修復】で良いかな?」
「構わない。時間が無いのは理解しているので贅沢は言わないさ」
クランメンバーは【簡易修復】と【手動修復】の事を伝えてあり、武器のメンテナンスは俺が一括して行っているのだが、最近ログインして居なかった為、色々な人の武具のメンテナンスに不調を来す結果になってしまったのは問題点だ。
常時滞在する人で【手動修復】が行える人を雇うか覚えて貰うしかないな。
【簡易修復】で直した盾をサラに渡して、カードの転移能力でリョウの元へ俺たちは飛んだ。
~~~リョウ視点 ~~~~~
森でアリスとセシリアのレベル上げに付き合っていたら厄介な魔物を見つけてしまった。
見た目は狼型だが、大きさが異常で9mは超えている程の大型だった。
俺たちの他のPTがレアモンスターだと分かり攻撃を仕掛けていたが、瞬殺だった。
PTはタンク1、前衛アタッカー3、後衛アタッカー1、ヒーラー1の編成で、まずタンクが狼のヘイトを稼ごうとスキルを発動して、狼の爪を盾で受けたらそのまま、盾と一緒に切り裂かれて消えた。
俺も呆然としたが彼らの方が唖然としており、その一瞬の隙に狼が、前衛3人を噛み殺していた。
その光景は戦闘では無く、一方的な殺戮だった。
ヒーラーの男性が、後衛の女性を連れて逃げようと手を引くと、相手の手だけを残して体は消えていた。
ヒーラーの男性の手に残された彼女の手はその後、消えて、ヒーラーの男性はその光景で腰を抜かしてガタガタ震えていた。
狼は知性があるのか、ゆっくり近づいて来るが、恐怖のあまりにヒーラーは動けず、目の前で狼が立ち止まると口が笑みを浮かべたみたいに吊り上がるとそのまま、頭から噛み殺していた。
異常な強さと異様な光景に、俺も一瞬、唖然とした。後方に居るアヤメも流石に息を飲んでいたし、他の子は恐怖を感じて震えていた。
「君たち大丈夫かい?」
俺たちの後ろから、1PTが現れた。
「こいつはやばいな…さっきのPTは加護持ちだったがそれも勝てないのなら俺たちの手に負えないな。君たちも加護持ちだろうが奴は桁違いだ。ここはギルドに報告して軍隊を派遣して貰った方が良い」
話の内容的に彼らはNPCの冒険者だろう。ただ、俺たちと違い本当の命がけの視線を潜り抜けた直感があの魔物の恐ろしさを伝えているのか、彼の額から大量の汗が流れており、気配は殺しつつも、一瞬でも気を抜けない緊張感を漂わせていた。
「俺たちは此処で様子を見ます。奴は異様に強いですが、皆さんと離れて奴を見逃すともっと被害が拡大すると思いますし、一応、これでも籠持ちなので死んでも教会で復活しますから最悪な結果でも大丈夫ですが、この子達は連れて帰ってくれませんか?」
俺は奥で震えていたセシリアとアリスの2名を彼らの前に呼んだ。
「「えっ?」」
二人は俺の撤退指示に戸惑いを隠せないようで、声を上げて抗議してきた。
「仲間を見捨てて帰りません。吹雪師匠だけで回復が足りるとも限りませんし。弱いですが私も皆さんと戦います」
「強さを求めて師匠に師事しているのは仲間を守るためだよ。それなのに昔の様に逃げたくない。」
二人は恐怖が無い訳ではないが、それ以上に仲間を見捨てて逃げる方が辛いのだろう。
「これは副団長としての私からの命令でもある。お前たちは帰れ。幼いお前たちにあの恐怖を植え付けられたら立ち直る事も難しいだろう。この世界は優しくない。お前たちは自身の力量をしっかり見定めろ。私たちの弱点はお前たちだ」
アヤメが厳しい言葉を二人に投げかけた。言い方を変えると「邪魔だから帰れ」だが、アヤメの言う通りこの世界は優しくない。
恐怖はあるし、痛みも若干だがある。正直、大人のあのヒーラーもトラウマを持つんじゃないか?と思うレベルで今回の戦闘は酷い物だと予想が付く。
俺たちは高校生である程度の踏ん切りも腹も括れるが、彼女たちは中学生位だ、そんな感受性豊かな時期にこの光景だけでもきついのに戦闘などさせれる訳がない。
更にセシリアに関しては加護も無いので死んだら終わりなのだ。仲間を道連れに戦闘など出来る訳もない。
「それになアリス。お前の尊敬する師匠の仲間たちがあの犬ごときに負けると思うか?」
アヤメがにやりと笑いながらアリスの頭を撫でた。
その後は渋々ながら、アリスとセシリアが冒険者PTと一緒にギルドへ報告に向かうと、俺たちは狼の様子に視線を向ける。
「これはこの間、遭遇したキラーアントの大量発生より厄介ですね。あれでも魔王級でしたが今回は間違いなく魔王級だと思われます。」
俺がゲーム内から、雪に連絡を入れ終えると吹雪が呟いた。
魔王級…最強戦力の一端である魔王に匹敵する魔物。キラーアントは組織力で魔王級だったが今回の狼は間違いなく個の戦闘力だろう。
もし戦うなら奴の攻撃は【受ける】ではなく【流す】にしないと全滅したPTのタンクと同じく武具と一緒に切り裂かれるだろう。
色々、考えていると狼は鼻をひくひくと動かして口元をにやりと吊り上げた。
残された俺たちは瞬時に気付かれたと判断して構えた。
(狼だから嗅覚で把握できるのを忘れてたぜ。ユエ達、早く来てくれよ。)
目の前には絶望に近い死の狼が立っていた。




