調べ物と報告
冒険者ギルドを出て、この国、唯一であり最大規模の図書館【ゴーフィン国立図書館】へ着いた。
入る際に、希少な本もあるので、保険金としてMG金貨1枚の提示が必要なのだが、この金貨は出る際、使用した書物に問題が無ければ普通に返却されるので基本は無料となる。
吹雪の分も込みで2枚MG金貨を渡して、中へ入ると中心は天井まで吹き抜けになっており、壁一面は本棚で埋め尽くされていた。
本棚の本を取るためだけにある、2階、3階の通路も吹き抜けの読書スペースから丸見えで、色々な人が行き来していた。
これだけの膨大な量の書物があるとは思いもしていなかっただけに、少し司書の人に目的の物を聞くことにした。
「すみません。少し調べ物をしたいのですが、書物が沢山あって場所が分からないので教えて頂けないでしょうか?」
受付に居た、小柄のゴブリン女性に聞いた。
肌は緑色だが、メガネをかけた目は凛々しく少し釣り上がって少し厳しい印象を受けた。
全体的に見てスーツもキッチリ着ていて、敏腕女秘書的な印象を受ける。
「どの様な内容ですか?」
「200年前の戦争と加護について」
「200年前の戦争の話は1階のCの棚にあります。加護に関しては3階のBの棚ですね。戻す際はこちらに持って来るか、元の場所にお願いしますね」
「わかりました。教えて頂き、ありがとうござます。」
俺達は、司書の女性に挨拶をしてから、目的の場所へ向かった。
2箇所あるので、吹雪には3階のBの棚へ行ってもらい、俺は1階のCへ向かった。
【200年前の真実】【10英雄の功績と末路】【人間界の思惑】【緑と水の国の栄光と亡国】【人間界への規制と封印】【緑と水の国の女王】【10英雄は騙された?】【人魔戦争の発端と終戦】の8つの本を持っていくことにした。
吹雪の方は、【加護と祝福】【加護持ちの証明】【加護ありとなしの違い】【加護とは誰から貰うのか?】【失った加護】【加護と祝福検証】の6つ
色々な本を読んで、まとめた内容をみんなに話すことにした。
二人で作業しているにも関わらず、かなり時間を使ってしまい、本を戻して図書館を出ると夕暮れを迎えていた。
屋敷に戻ると、すでに俺達以外のメンバーが集まっていた。
「お帰りなさい。師匠」
「えーっとアリスその格好は?」
迎えに出てきてくれたアリスの服装は、メイド服だった。
「アヤメさんから頂きました。何でも師匠がこの姿で出迎えをすると凄く喜ぶと聞きました」
キラキラした眼差しで俺を見るアリス。「確かに可愛いとは思うがメイド服属性は俺には無いぞ」っと思い奥を見ると、アリスを愛でる視線で見るアヤメが居た。
お前の好みか!っと突っ込もうと思ったが、騙されているとは言っても、俺のためにやっているアリスの前でアヤメの嘘だと言うのも申し訳なく感じるのであとで、アヤメを絞めることにした。
「師匠、皆さんが食堂で待っていますので来て下さい。」
「わかったよ。それと可愛いよアリス」
俺の褒め言葉に嬉しそうに笑いながらアリスは食堂に向かったので俺達もアリスの後を追うように食堂へ向かった。
「みんな、待たせてごめんね。」
俺の謝罪を聞き、みんなが笑う。
「別に誤ることでも無いぜ。俺達も先ほど着いたばかりだからな。」
リョウの言葉にみんなが頷く。
「じゃあ各自にこのクランボックスからカードを渡すよ。このカードはギルドカードと同じ通話機能のほかに、各カードやこのボックス、マスタキーへの転移が可能だが、1日1回だから使用する際は注意が必要だから」
クランカードを各自に渡すと本日の行動の結果を報告する。
レベル上げ&周囲の調査班はリョウが説明する。
魔物のレベルが森よりも高く、今以上の成長も可能だが、薬草類は森のほうが豊富で良い素材は少ないとの事。
国の住人への聞き取り調査組はサラが報告する。
200年前の戦争は人魔戦争と言われており、1つの国が滅んだことと、人族への嫌悪感を増進させる結果になった。
住民の中には人族を悪魔の権化の様に言う人もいた。
国の発行する書物では詳しく書かずに戦争の経緯と結果しか書かれていないらしいが、戦争で実際に目にした親から聞いている話が酷過ぎて【無慈悲な人族】【悪魔の化身】【欲に塗れた種族】など影で言われている。この国と言うか魔大陸側の人族に対するイメージの低さが解る内容なだけに人族の4人は暗い雰囲気になってしまった。
「大丈夫、国王も「人族全てに罪がある訳では無い」と言っているから表立って人族に攻撃するものも少ないよ。だけど4人は気をつけたほうが良いのは事実だね」
サラの言葉は気遣いと注意を促す物だった。
最後に俺の報告になる。
祝福は生まれたときに神や精霊などの高位存在が与えるもので、加護は生まれて生きている間に高位存在から得られる物との事らしい。
加護は戦闘による死を無かった事にするのに対して祝福はスキルや能力が他より優遇されるらしい。
高位存在とはプレイヤーの事も含めると推測することが出来る。
また、加護が無くなる人も居たらしくその事実が確認出来たのが何と、正式サービス開始時と一致していた。
外れた=新しいアバター製作と考えることも出来る。
まだまだ、詳しく解明されていないことが多く、伝えられる内容はこれだけだった。
戦争の書物も大体、サラが調べた事と同じく、人族が魔大陸の資源を狙って戦争を起こして、中立で魔道具や魔装を保管していた緑と水の国ヴァッサーを攻め込んだらしい。
10英雄を騙して魔王退治と称して襲わせたとの記載もあった。
人族の思惑通りには行かず、母が時間を稼いで民を逃がして、侍女をしていたエルフの第2王女が母の城を自らも含めて湖に沈めて封印したことで伝説級の武器などは渡ることも無く、魔大陸側の勝利に終わった。
しかし、勝利にために1つの国が滅んだ事実もあり、人族の大陸と魔大陸の行き来できる場所に人工的にダンジョンを作り出して軍隊での進入を防ぐ防壁を作った。
魔大陸で一番大きい湖が俺のアバターの故郷と言うことになるのだが、その付近はかなり上位の魔物が住み、魔大陸の住民でも近寄らない危険な地域となっているらしい。
「10英雄ってどうなったんですか?」
アリスが俺の話を聞いて気になった点を聞いてきた。
「10英雄は母の部下との戦闘で4人が死亡していて、残った6人も神聖王国に騙されていた事実を知ったが、人類連合に物量に押されて無くなってるね」
「英雄さんも被害者なんですね」
セシリアが悲しそうに呟いているが、事実確認をしっかり行わなかった彼らに非があるのが俺の感想だった。
色々な偉業と人を救い英雄、救世主と呼ばれて有頂天になっているときに魔王討伐と言う物語の英雄と同じ依頼が来て彼らも浮かれていたんだろうが…彼らが戦わなかったら国は母はまだ健在していたと思うとセシリアの様に被害者とは思えなかった。
「まぁ暗い話はここまでにして、ユエの目標の国へ行くには実力が明らかに足りないと俺は思うので、ここの周辺で実力を付けながら色々な国へ赴いて200年前の話を聞きまわるのもありかと思うがどうかな?」
「確かにリョウの言う通り、実力が圧倒的に足りないので、その案で行こうと思う。異論が無いなら解散で良いよ」
「じゃあ、私は部屋に行きます。アリスちゃん行こう」
「俺もそろそろオチるわ。」
アリス、セシリア、リョウが部屋を出るのを見てみんなも出て行く。
「じゃあ私もログアウトするけど吹雪はどうする?」
二人っきりになった食堂で吹雪に尋ねる。
「私は食器を片付けてから部屋に良い着ます。ユエ様は先にお休みください」
「そう、じゃあおやすみ」
吹雪がシンクへ向かうのを見て食堂の扉を閉めた。




