PVP大会1
文章は短めで、戦闘はありません。
「ユエちゃん、緊張してきたよー」
私の隣に座る、狐人族の少女がそわそわしながら、話しかけてきた。
彼女は愛里沙のアバター サリア 愛里沙を逆読みしただけなのだがね。
「別に緊張する事でも無いでしょ。いつもと変わらない仕事よ」
私の前で座りながら読書をするエルフ族の女性。沙羅さんのアバターでサラである。
本人が言うには、「アイドルとしてリアル割れしてるのだから別に名前を変える必要無くない?」との事だ。
「そりゃ、今まで色々な仕事したけど、規模が違うじゃん!ネット中継だよ。全世界だよ!緊張するさ」
そう、今回のPVP大会はネット生配信されるので、全世界で見れるのだ。
「規模はでかいけどやることは変わらないわよ」
本を置き、俺が用意したお茶を飲む。
「サリアの言い分は私はわかるかな?」
俺はサラのカップにお代わりを注ぎながら会話に混ざる。
「けどね。緊張よりも楽しみが大きいかな?3人で大きな仕事をするのは初めてでしょ?」
「そうね。」
サラは持っていた本を閉じて、立ち上がった。
「さぁ、もう時間よ。行きましょうか」
サラが、このユニットのリーダーだな、やっぱり。
「ようこそ!PVP大会!正式名、魔闘技大会へ。俺は進行を務める。マルチだ。気軽にマル兄でもマッチでも好きなように呼んでくれ!」
マイクを片手に金髪サングラスの男が、会場全体を動き回りながら自己紹介をする。
動きは、軽快で隙のない動きだった。
(この人、かなり強い前衛職だ。)
「今回は凄い大物のゲストを呼んでるぜー!この国の国王、アンドロス・イシュタール13世と歌って踊れる現実のアイドルユニット「FloralGirls」だーー!」
マルチさんの紹介の言葉で俺たちの前の扉が開いた。
俺の前には国王とサラが後ろにはサリアが居る。
歩いて会場の中央に立つと人々の歓声が聞こえて来た。
「国王様!」
「サラさま~」
「サリアちゃんは俺の嫁!」
「ユエ様!!最高でございます!」
人々の歓声の中、一人だけおかしな子が居た。
勿論、うちの子、吹雪である。
額に「ユエ様命」の鉢巻きと私の色をモチーフにした白と水色の半被、「ユエ様」と顔の写真付きの旗を両手で振っていた。
しかも、彼女の周辺が同じ半被を来た人々が吹雪に合わせて手を振っていた。
「ユエ。君の知り合いかい?」
サラが笑いを堪えた表情で聞いてきた。
他人と言いたい気持ちを抑えて「身内です」と答えた俺は偉い。
「それじゃ!開会式の前にFloralGirlsの歌を堪能してくれ!」
俺たちは各自のポジションに着いた。
初めは緊張していたが、この場の練習通りの立ち位置。左右を見れば見知った仲間の顔。
思ったより、頭の中は良い意味でクリアになっている。
曲が流れ、3人が乱れぬ動きで踊り始めた。
「いやー、良い曲だったね。それじゃ開会式宣言を国王様からお願いします」
俺たちの出番が終わり、ステージの隅へ移動する。王様はすでに特別席へ移動しており、魔道具を使用してステージに姿だけを投影させていた。
「では今大会の説明をする。予選32ブロックの上位2名が本戦へ出場の権利を獲得できる。各ブロックの1位には報酬を用意しており、各ブロック1位は魔法薬の「ハイポーション」を3つ贈呈しよう。」
ハイポーション…魔法薬で魔法と錬金術の技術を駆使して作る薬で、傷の修復などヒールと同じ効果で癒すことが出来るが、製造を行えるものが少なくかなり貴重な物だ。
そんなレア薬品を32ブロックの1位に3つも渡すとは太っ腹過ぎる。
「本戦は64名で上位8名に報酬を検討している。皆の者、良き戦いを期待しておる。儂からは以上だ」
国王の説明を終え、戦闘を始める。2日間だけで初日で予選を終わらせて、明日で本戦を終わらせるためには時間が足りないので素早く戦わないといけないらしい。
「じゃあ、私は行ってくるね」
「頑張ってくれ、ユエ。君の戦績で私たちのユニットの知名度がもっと、上がるかもしれないからね」
「私は全力で応援しています!」
二人の言葉を聞き、愛刀を腰に装着させ、気合を入れ直して予選会場へ向かった。
ちなみに俺のブロックには知り合いは居らず、当たるとしたら本戦なのでここで負けるわけには行かないな。




