ゴブリン王の試練
苦手な戦闘シーンです。
鎖から解き放たれた狼が、私の目の前まで歩いて来ていた。
大きさは3m位で、灰色の毛に大きな口と鋭い牙。獲物を見つけた捕食者の様な目をしていた。
と言うか、間違い無く餌だと認識されているかも知れない。
「では、吸血鬼のお嬢さん。我を楽しませてくれよ」
ゴブリン王が言い放った言葉をきっかけに狼が巨体に似つかわしくない素早い動きで、突っ込んできた。
咄嗟に横に避けたが、狼が食いちぎった地面がかなり抉れていた。
そのまま、立っていたら間違いなく丸飲みだったと思う。
前足の爪でこちらに追撃をする狼を避けながら、太刀を相手に入れていく。
大きく振りかぶった手を屈みながら進み、懐に入るも、毛皮がかなり丈夫で切り傷1つ付けることが出来なかった。
知性は無いはずだが、狼がニヤリ笑みを浮かべたような気がしてゾッとした。
このままではやられるかも知れない。
太刀を握り直して、相手を見据えると、異様なスピードで狼が突進してきた。
爪による連続攻撃、左手をバックステップで避け、右手を左へ大きく回って避けるが後ろ足が目の前に迫っていた。
回避無理と判断して太刀を体と爪の間に入れて防御するも威力を殺すことが出来ずに壁まで吹き飛ばされた。
「ぐふ」
背中に一瞬だけ痛みを感じたのと、壁にぶつかった衝撃で肺から息が声と共に出た。
「もう終わりか?」
遠くの方で、ゴブリン王が笑みを浮かべながら問いかけて来た。
このまま終わるのも気分が悪いし、何としても狼に一矢報いたい。
防御強化と爆裂系の呪紋を書く。
「プロテクション」
プロテクションの効果で体の周りに光が纏っている。爆裂系の呪紋は右の掌に書いて握りしめた。
魔法に一瞬だけ、間合いを広げた狼だが、防御の魔法だけど油断して、また餌を相手にする目に戻っている。
やはり、それなりの知性はあるのだろうが、この洞窟の絶対的捕食者としての意識が高いのか油断する事が多く感じた。
鞘を腰から外して左手に持つ。姿勢は低く、そして一瞬で接近できるように利き足に力を籠める。
狼は先ほどと同様のスピードで迫って来た。
狙いを右前脚に定め、こちらも突っ込む。一瞬の出来事の筈だが、スローモーションの様に感じる。
狼が太刀の間合いに入ったと同時に、右前脚を大きく振りかぶっていた。
居合の要領で足を踏み込み、太刀を抜く。太刀スキルは無いが両手剣としてシステムに認識されているので、基本にして威力があるスキルを使う。
「ハードブレイク」
太刀がスキルの発動の青白い光を纏い、右前足の付け根に吸い込まれるように入った。
「きゃん」
「ぐっ」
狼の右手は根元から吹き飛んだが、ギリギリ運が悪く、爪の攻撃を右手に受けてしまった。
攻撃の威力で太刀を落としてしまい、右手の感覚がなくなった。一定以上のダメージを腕に受けて遮断されたらしい。
回復魔法か道具で回復しないとこの戦闘中は、右手を使うことが出来なくなった。洞窟内だと自己再生が思ったほど強く働かないらしく、一瞬で治る気配が無かった。
深いダメージを受けたのは狼もらしく、足を1本失った事で、機動力がかなり落ちていた。
また、前足1つ無くなった事で、爪を使った攻撃がほぼ封印できたと思われる。
「グゥゥ」
怒りと敵としての認識、雑魚だと思って油断した代償は大きく、狼の目には油断はもうなくなっていた。
左手に短刀を持ち、狼と対峙し直した。
近くまで移動してきて、噛みついてきた狼に対して、口に右手を差し出す。
右手を噛んでいるが、すでに感覚が遮断されているので痛みは感じない。
「ボム」
キーを唱えると、右手に書いた呪紋が発動して、狼の口の中で爆発が起きた。
口を開き、牙が数本折れ、血まみれの口腔内に左手に持った短刀を突き刺す。
口の中に体が半分入った状態で力を加えて、頭を目指す。
突き刺した場所以外からも血がどんどん流れているが、狼も抵抗をするかのように口を閉じた。
折れていない、牙が数本、体に突き刺さるがそれでも左手の力を緩めずに踏ん張る。
噛みつく力が更に入り、ダメージがかなり深刻な状態だった。
左手の短刀を手放し、呪紋を書く。火の呪紋…「ファイアストーム」
キーの発動で、自分を含めて口から喉を通って体内に炎の嵐が駆け巡る。
噛む力が緩んで、俺の体が口から地面へ落ちる。体に力は入らずプロテクションと自己再生の効果でギリギリ耐えた状態だった。
狼も横へ倒れて、時間の経過と共に巨大な魔石を残して消えた。
「ほぉぉ、見事だ。」
ゴブリン王が倒れてる俺の横まで歩いて、何かの薬品を体にかけた。
「これは我が国の錬金術師が作った秘薬だ。普通は飲む事で効果を最大限発揮するのだが、吸血鬼ならかけるだけでも十分、効果もある。それと、これが褒美だ」
俺の横に金属の板を置いた。
「これは我が国の通行証だ。勇敢な吸血鬼のお嬢さんを歓迎しよう。」
ゴブリン王は「がははは」と豪快に笑い、部下に撤退の命令をしていた。
「ではまた会おう。それと個々のボスは3日後にダンジョンの魔力で復活するので早めに出ることをお勧めするぞ」
そのまま、洞窟の奥へ部下と共に消えていった。まだ、体は動かないが、体の傷か塞がっているのでかなりの薬だと思う。
はぁ~疲れたし、かなりギリギリだった。相手が油断していた事、足を失って機動力が半減していた事、一応、洞窟内で若干ながら、自己再生能力と闇夜の支配者のスキルが発動していた事。何より、あのゴブリン王と先に戦闘して捕まっていた事。数々の運の良さで切り抜けれた戦いだった。
反省や対策はまた、後にして今は休もうと思い、目を閉じた。
今までで一番の強敵でした。ダンジョンボスは基本PTレベルでの討伐なのでやはり、ユエさんが異常。




