まだまだプレイ出来ません!
「せっちゃん、次の会議の時間になるから後の説明は叔父さんにでも聞いて頂戴!じゃあまたね〜」
そのセリフを最後にモニターは黒くなった。
いや、説明も何も無くただ「ゲームしてね」的な事言われても意味がわからない。
隣の柚子さんも呆れた表情で呆然としているし。
「真希も相変わらず要件だけ伝えるのは治せないのかな?」
前に立っていた父さんが、やれやれと肩を竦めて笑っていたのだが、母さんは成長しないのか?学ばないのか?
「では雪くん、私が真希さんの代わりに説明をしようかな?」
康叔父さんがモニターの近くまで歩いて、こっちを見ていた。
「私が勤めている会社で今現在、普及しているVRのゲームを超える物を作って、それのベータテスト応募が明日から開始されるのだよ」
今あるVRを超えるとはどう言う意味だ?
今でも五感のうち感触、視覚、聴覚を体感出来るので、かなりの現実的だと言われているのだが。
「私達は五感は勿論、満腹感なども補う事に成功したのだよ。あえて言えば、もう一つの現実世界を作ったと言う事だ」
馬鹿げてる。3つも補えている現状が今の技術力の限界だと言われていたのに、五感全てに他の感覚まで補うとか現実との差が無くなっているのでは?
「このゲームはゲームであってゲームでは無いのだよ。だからキャラメイクは殆ど使用できないし、ゲームの時間の進みは現実と変わらない。PKをすれば捕まるし牢獄送りになるし最悪、裁判でキャラ削除もありえるからまさに現実だよ」
かなり現実的で、ゲームを楽しめるのか疑問に感じる内容だった。
「他にもゲーム内でのルールと言うか説明はあるのだが、そこはチュートリアルの段階で説明するキャラが居るから私からは特にこれ以上ゲームの内容は言わないけど、雪くんにお願いする理由は説明させて貰うよ」
それはゲーム開始以前の話だと思うし、そもそも俺自身がゲームをプレイするとは言ってないのだがね…
「君に頼む理由は宣伝効果だね。カリスマモデルがプレイするゲームとなれば、君年代は間違いなく注目度するだろうしね。お願い出来ないかな?」
うーんVRをユキとしてプレイするのには問題があるのだが…男だとバレた時がヤバすぎる。
ネットで瞬く間に拡散されて日常生活に支障が起きるのだが…
「あー雪くんが、仕事として了承してくれるなら女キャラとして作成できるパスワードをプレゼントするよ」
「叔父さん、申し訳ないが俺はゲームでは男として行きたいのでそれは無しの方向でお願い出来ませんか?」
そう、リアルで性別を偽って仕事をしていてストレスや精神的な疲れが酷いのにゲームでも同じ苦労をするのは御免だね。
「まぁ、性別限定装備は無いし、キャラクターのステータス鑑定のスキルも限られてるし問題は無いか…」
おや、普通は性別限定の装備を作ると思うのだが?何故だろうか?
「どうして、性別限定の装備を作って無いのですか?」
「そりゃ、自由をテーマにしているのに限定の装備を作るのはおかしいだろう?装備条件さえ満たしていれば、全ての装備が使えれる仕様だからね」
自由を意識しすぎて、クソゲーになってるとか無いよね?とは流石に聞けない…
「このお願いを聞いてくれるならβテストの3000名枠の中から雪くんは勿論、花音ちゃん、遼くん、綾ちゃんの分も用意しよう。」
応募して抽選で決まるテストプレイヤーに捏ねで入るのは問題がある気はするが、俺自身も広告として利用されるならこの条件で頷いたほうが美味しいのでは?
それにクソゲーならβで辞めれば良いしな。
「分かりました。その条件で受けますが、β終了までの宣伝で良いですか?それ以降は1プレイヤーとして宣伝とか関係なくプレイしたいと思うのですが」
「それで良いよ。面白ければβ終わったらすぐに注文が入ると思うし。今の不安は、βテストの3000枠が埋まらないことだからね…」
困った表情で叔父さんは溜め息を漏らしながら、愚痴というか不安を零していた。
普通のVRと言うかオンラインゲームはβテストの募集枠を超える応募が来るものなのだが、何故そこまで不安になっているのだろうか?
「何故そこまで宣伝をしたいの?って顔だね。うーん、雪くんは私の勤めている会社が何か知っているかな?」
叔父の会社?そう言えば知らないがゲーム会社じゃ無いのかな?隣の柚子さんを見ても知らないのか、両手を挙げて降参のポーズをしている。
「実は私の会社は健康機器の開発会社なのだが、今回、長期入院患者でもストレスを感じないより現実に近いVRを可能にする機器の開発をしてて、成功と同時に上の方でより利益を出す為に、ゲームとして売ろうと案が出たのは良いのだが宣伝などを今までやったことが無いのと、ゲームと言う今までのジャンルの違いからゲーム自体の開発だけに時間かかって、気づけばβテスト募集直前だったと言うわけさ」
欲をかいた結果、予定よりも作業が増えて必要な情報の提示が出来ずに慌てたと言うわけか…あー柚子さんも呆れてる感じだ。
「雪には申し訳ないが、弟の頼みと言うのと我が社も援助しているプロジェクトだから成功させる為に手を貸して欲しいというわけだ」
今までの黙っていた父さんが話し始めたが、うちも関わってるのなら失敗したら損失も大きいのだろう…ただ母さんなら面白そうで援助してそうだから、父さんが大変だな。
「柚子くん、申し訳ないが雪の仕事を少しメディア方向に取ってもらえないか?」
父さんが、柚子さんに今後の仕事の方向性を指示していたのだが、メディアってTVとかは少し困るのだが…
父さんの言葉を聞いて、柚子さんはスケジュール帳を開きながら電話をしていた。
「元々、ユキちゃんはモデルで性別バレの危険性があるメディア系は断ろうと思っていたのですが、宣伝効果を狙うなら可能な限り引き受けようと思うのですが、現在、オファーのある4件の番組出演と雑誌のインタビューを3件入れておきました。滅多にTVに出演しないユキが出るので話題性は十分ですし、カリスマモデルですのでインタビューにもゲームの事を入れればゲームの話題性はかなり強固の物になると思いますよ」
笑顔で語る柚子さんなのだが、その仕事量を消化する身としてはゲンナリする内容だった。
撮影が基本で稀にラジオなどの声だけの仕事はしたが、TVの仕事が連続で4件って初だし疲れそうだわ…
柚子さんは俺にウインクして「ユキちゃんなら大丈夫よ」と言っていた。