.ひふをすうように
「きみがきえてしまう」
なんて、いつから思った感情なのだろうか。
夏の陽にすける白いはだをみて、きみがかげろうのように、ぼくのまえから消えてしまいそうでほんとうにこわかった。
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すけていくきみの白い皮膚を、まだおさないくちもとでなぞった。
ぼくの吐息がかかるたび、きみの身体はびくり、と動いて、あつくなる。
それがたまらなくいとおしくて、ぼくは舌で華奢なからだの輪郭線をなめた。
とうめいの筋が、きみのからだに刻まれていく。
「やめて」
そこではっと目をさまして、ぼくはくちびるをきみから離した。
上目遣い気味にみたきみの身体は、かくかくと震えている。
「ごめん」
「どーしたの?きょうのあつき君、ヘン」
わからない。
ぼく自身も、どうしてきみをこんなふうに扱いたい、という衝動に駆られたのかもわからないのに。
気付いたら、きみのくちもとを、ぼくのくちびるでかすめていたのだ。
きみの肌のやわらかさが、全身につたわってきたのが鮮明に思いだされた。
「きみがきえてしまいそうで」
そう、ぽつりとつぶやくと、きみは「なにそれえ」と言って首をかしげた。
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いつか、たいせつなひとがきえてしまったら、ぼくはどうするのだろう。
いまは、わからないことにしておきたい問いかもしれない。
でもきみは、たいせつなひとは、ぼくの近くにいるのだ。
「ゆきの」
きみのなまえを、ゆっくりと確かめるように呼ぶと、きみはぼくの思い通りこちらをむいた。
息をするひまがないくらいに速く、やわらかく、きみのくちびるをぼくのくちびるでなぞっていく。
背中に手をまわして、そのやわらかいかみのけを一本一本たいせつに愛撫した。
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ゆっくりと顔を離していくと、きみのほおは、林檎色に染まりあがっていた。
それがいとおしくて、ぼくはふかくふかく、きみが消えてしまわないように抱きしめた。
そしてそれは残像のようにあでやかで生々しく、きみを彩っていた。