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物語の幕開け、『現実と二次元』①

思わず声が出ていた。


「え?」


次には後ろを振り向く。事態が飲み込めない。目の前に広がる光景は知っていて知らない世界、でもありえない状況。急激に喉が渇き始めた。


「いや、え? 何……? なんで? え、意味が……は?」


焦り、不安、恐怖。負の感情が一瞬で動悸を速める。手が震え、次には全身を鳥肌が浮き出す。力が入らない。


「はっ……はっ……」


蛍は自分の呼吸がおかしくなるのを感じた。このままではマズイ。過呼吸になる。脳裏に自身の体の異変にテンパっていた脳が冷静さを取り戻させようと動いていた。


す、すぅ、はっ、はぁはぁああ、すぅう、はぁ。


簡単にできるはずの深呼吸が理想の形とは違い、歪なタイミングで行われる。それでもそのおかげで徐々に思考が安定されていく。歪が平常に、何度となく繰り返される呼吸も最後には深く深く吐かれた。


脳に酸素が行き渡り、状況の整理を行おうとする。


普段ではありえない。独り言のような言葉は表へと出された。


「……寝てはいない。気を失った記憶もない。部屋に入ろうとしただけ、後はなんだっけ……、あ、そうだ太陽を見送って、大丈夫大丈夫、覚えてる。記憶はある」


だからこそ、理解ができない。事態が起こったのはあまりにも唐突で前触れがない。一つ一つの事を丁寧に束ねていく。


「よし、こうなる前の記憶は普通だ。じゃあ、なんだここは、なんで……」


本来のあるべき日常に異常はなかった。だとしたら今目の前に広がっている光景が異常なだけ、そう思う蛍は一度本来の世界を記憶から外し目の前にある風景に手を伸ばす。


草木、花、風、触れてみて感触が違うことに気付く。それと同時、触れられるという事実に混乱する。これは非現実でありながら現実に起きている。


「アニメ、アニメ、アニメ、他は……二次元……ヤバイ……意味が分からない」


蛍はこの世界に心当たりがある。心当たりがあるというのはあまり適切ではない。しかし、蛍が知っている世界、太陽が大好きな世界に間違いがない。


「可能性があるとしたら……」


TV、どっきり、異世界、神隠し、UFO、拉致、電脳世界、思いつく単語を片っ端から探す。その中から該当するものがないか、当て嵌めてみても納得できるものがない。


例えばTV、ある意味では可能だろう。しかし、それが可能とするのは切り離して、後からの合成。二つを同時には無理だ。


例えばどっきり、これもTV同様な理由で不可能。そもそも蛍はこの高度かつ不可能などっきりを仕掛けられる理由がない。


例えば異世界、小説、漫画、それこそアニメの中だけで繰り広げられる空想の作り物。


例えば神隠し、現実にあるのかは不明、あるとしても長年暮らしてきた家、または自分の部屋で起きるとは到底思えない。


例えばUFO、可能性では、ある。存在すれば、だが。


例えば拉致、それはない。何度でも答える。ついさっきまでいたのは蛍の部屋だ。


例えば電脳世界、技術的に進歩すれば可能性はある。しかし、完成していればすでに世界が変わっている。


蛍が出した結論は、どれも可能性があり、どれも可能性がない物だった。


ふと、もう一つ、蛍が一番好きなジャンルの中に疑わしきものがあった。


「心霊現象」


映画ではよくある話だ。自分がいる居場所が実は違う。追い込まれた人間が出口へと到達し、安堵したところで元の恐怖へと逆戻り。好きだからこそ、どことなく型に嵌る。当然、心霊スポットなどには行っていなかったのだから、それ自体は適切ではない。


しかし、蛍はもっと単純なところに適合性を考えていた。


蛍は手のひらを見る。


「突然死」


死後の世界は誰にも分からない。だとしたら、可能性としては十分あり得るのではないか……。


単純かつ可能性の高さに無理やり理由付けはできる。だが、単純のさらに上の単純な理由に蛍の考えは堂々巡りの事実を告げた。


「……なんでアニメ?」


そう、仮に死んだとして、コントでみるような三角巾をしている方がまだ納得がいく。どこの世界で仮死状態になった人間が『アニメの世界に辿り着いた』なんていうものか。仮に行くならば太陽と同類系の人間だけだろう。


「喜んで死にそうだな」


思わぬ考えに呆れたように蛍は一人笑みを零した。おかげで恐怖が和らぐ。


しかし、不安は拭えない。この先どうなるのか全く分からないからだ。


少し考えた後、蛍は息を吸った。


「だれかっぁああああああああああ!」


そばに助けがないか、叫んでみた。


反応はない。


頭を抱える。


冷静に辺りを見渡した限り、蛍は現在、森、もしくは山の中で遭難している状況に近い。あたりは木々と草、花、その程度しかないのだ。


「誰かいませんかっ!!」


もう一度叫んでみる。


やはり反応はない。


蛍は山で遭難した場合の対処を思い出す。湖が山の中にある地元では、念のためにその対処マニュアルをよく聞かされていたのだ。


しかし、山は山でも、


「世界そのものが違うとか意味わかんね……」


国が違うなんて生易しいものではなかった。


「くそっ」


蛍は崩れるように座り込んだ。尻に違和感だらけの感触がざわつく。


長い沈黙がやがて、風の音に変わっていくのを感じながら蛍は途方に暮れた。


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