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始まりの日、『二分の一』②

やっとの事で戻ってきた息子を見ると、太陽の母信子は恒例になった挨拶を交わし始める。


「やっときたね。それじゃあ、かなちゃん後のことはよろしくね」


「はい、気を付けていってらっしゃい」


「休みの時にお客さんが来たら、適当にあしらっていいからね」


蛍の母かなえはクスリと笑う。


「はい。適当にね」


その言葉にいい加減と言う意味合いはない。信用たるその言葉に信子は豪快に笑い、もう一つ加える。


「尻蹴飛ばすぐらいがちょうどいいんだうちの店は」


「いや、駄目だろうよ」


間髪入れずに、太陽の父親は車の中から答えた。


「うるさいねぇ、あんたは、黙ってた」


「おーこわ」


太陽と蛍が恐れる親父もこの母親の前では形無しだった。


そんな大人を尻目に待たせていた太陽は、助手席に乗り込む。


「んじゃ、一週間後にな」


「ん」


こっちは適当な挨拶で済ませ、車から離れる蛍はその途中、月と目が合う。


その瞳は何かを言いたげで、


「なに?」


「別に、財布探すだけで随分時間掛かったなぁって思っただけ」


何かを怪しんだような瞳は、明らかに財布を探す以外で時間を使ったことに気が付いている。真実は云わず正直に話しても良いことだ。それでも蛍から出てきた言葉は誤魔化しだった。


「誰かさんに部屋中を荒らされたんだよ」


「ふ~ん」


後ろめたい内容が含まれていた事が大半を占めるが、説明した方が言い訳がましくなるのでやめた。月も突き止めるまではしようとせず、追及はない。

太陽の母親が車に乗り込んだこともあり、蛍は母親の並び見送る態勢に移る。


「んじゃよろしくっ、火村家諸君」


エンジンが排気ガスを排出し、準備を完了させた。


「ほた、太陽の部屋少しは片づけといてね、この馬鹿何にもしないから」


蛍は太陽の方を見る。


よろしくの意味をサムズアップで伝えられる。


「なんで俺が……まぁ、気が向いたら」


「よろしくね」


「礼代わりに地方の土を持って帰ってきてやるよ」


「いらねぇ」


「私は現地の女の子紹介すればいい?」


「似た者兄妹」


月が前の座席を蹴飛ばす。「いたっ」と被害を被った太陽は仕返しと、


「心にもないことを」


「こら月、蹴らないでっ、行儀の悪い」


「いや、そこは俺の心配でしょ、普通」


今度は本気で座席を蹴られ、太陽は余計に嫌われる。


慣れた光景に見送りは一人を除いて笑顔のままだ。


「よろしくねー」


「っじゃなー」


「ばいばい」


「ばいばいって」


「うるさいっ」


「いってらっしゃい」


クラクションが最後に、ぷアっ、と鳴らされ杉原家を乗せた車は遠ざかっていく。


蛍の母親は車がいなくなるのを確認し終えると、これも恒例の一つ。


「しばらく、寂しくなるわね」


「はいはい」


雑にあしらう蛍だが、その心境はやはり母親の言うとおりだった。この時期になるといつも一緒にいる友人のような兄弟と離れる。年に数回とある行事だが、どことなく物足りない感じになってしまう。


それを幼少期から知っているかなえは、少しでも紛らわそうと会話を途切れさせない。


「また湖?」


「ふわぁ、ああ、さすがに疲れるな。やっぱり」


低い山とはいえ、ちょっとした登山をした後だ、それに遊びとはいえ泳いでもいる。蛍は欠伸をしながら家のへと進む。その後を追うかなえは、


「少し寝てからご飯にする?」


「いや、誰かさんに荒らされた部屋片づけてからご飯で、風呂に入ってって感じかな」


「そ、じゃあ、用意できたら呼ぶね」


「ん、よろしく」


子供の頃はそのままリビングで学校の話をしながら夕食の支度をしたものだったが、さすがに高校生にもなると部屋にいる時間の方が長くなる。それがこの時期になると寂しい気持ちにさせられるかなえだった。でもそれは少しの時間、夫が単身で家にほとんどいないと理解している蛍は、夜になると極力は一階のリビングにいる時間が多い。


背伸びをしながら階段を上っていく蛍の背中を見送り、その少しの時間を足早に流すために台所に入る。


本来なら少しの時間――。


二階から蛍の部屋の扉が閉まる音が耳に響く。


それが、少しだったはずを急激に伸ばす合図だとは、かなえは知る由もない。



ジジ、ジジジ、………ジジ……………ジ――。



蛍が自分の部屋の扉に手を掛ける。


未だ再生を止めていなかったレコーダー。


その時を望まず、しかし、その時が来てしまう。


だから、その時の為に、その時を待っていた。



……sorry. ……………… cannot ………… longer.

……wish…………………………………….

"………………"


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