始まりの日、『七月二十二日:午後』―③
「うおわっ!」
考え事をしていた所為で、思いっきり蛍は慌てた。通り過ぎてしまった空間を反射で振るった腕が空を切り、バランスを崩して後ろへよろめく。
すると、笑い声と共にその黒い物体を投げつけた太陽が出てきた。
「どんだけ驚いてんだよっ」
予想以上の蛍の反応に払いが止まらないようだ。蛍の状態を確認しながらも笑い、投げた物を地面から拾い上げても続いた。
「お前なぁっ」
人を怒らせるには十分だったが、所詮は冗談の産物に過ぎない。蛍の腕ぎりぎりなのはコントロールの悪さでワザとではないし、ぶつける気など元々なかった。加えて投げた物はぶつかった所でなにか大きな事態に発展することはない、ただの長方形のDVDケースだった。
口調強めだった蛍を宥めるように冗談であることを告げるように太陽は言う。
「はは、悪かったって、目の前に落とすぐらいにするつもりだったんだけど、土で手が滑った」
「そもそも投げんなよ」
そこで蛍は終わりにした。冗談で一々怒っていられる程時間がない。
「で?」
「は?」
「は? じゃ、ないだろ」
「DVD」
「いや、そうじゃなくて」
「内容(中身)気にならない?」
太陽が黒いDVDケースを開けて中にDISCが入っている事を蛍に見せる。
「……気にはなる」
太陽はにやっと笑みを作った。
「予想は?」
「パッケージを剥いだなにか?」
「パッケージがあると考えたんなら、市販しているDVDか……。ふっ」
今度はどこか小ばかにしたように鼻で笑う。
「市販で売られているDVDはここまでちゃっちいケース使わないって。そうするとだ、これは一般的に売っているケース。つまり、個人で撮影した動画をDVDに焼いた可能性があるのだよ、蛍君」
「うわっ、やべ、うぜっ」
突然、出てきたオタクな太陽に蛍は心から言葉を吐き出す。
「うおいっ」
本気の意味を持った言葉に変わらず突っ込む太陽だが、気にはしない。
「まぁいい、さて、ここまで言ってもう一度同じ質問をしよう。内容(中身)はなんだと思う?」
短い時間を使って蛍は真剣に考える。その間、太陽は期待通りの返しが来るものだと思いそのためのリアクションを用意する。
そして一つの答え。