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開幕、『新しい世界』④

「ひ、ひどい目にあった。これが二次……いや、違うな。もうそんな言葉じゃ片づけられない。これがこの世界なんだ。しかし、イベントが多すぎるな、こんなのがいくつも続いていたら体の前に心が持たないぞ」


逃げ惑っているうちにどこかの商店の道通りへと辿り着いていた。露店というべきだろう、テントの下に品物を陳列し、売買が行われている。逃げているうちにどこへ来ているのか分からないが、この土地の地理がない俺にとっては、覚えやすい場所になるだろう。


そんな事を思いつつ、行くあてもない俺はうろうろしながら露店を見て回る。お金がないから、手に取ってみることはせず遠目からどんな品が置いてあるか確認する。


「なるほど」


さすがに何往復も露店の端から端を歩いていれば認めざるを得ない。


俺にはいくあてがなかった。


やるべきことは明確に持っている。それは元の世界に帰ることだ。だが、方法は分からない。それにしても、何もやるべきことがないわけでもない。まずは、原点へと返ること、つまり俺が最初にこの世界で現れたとする場所に確かめに行くことだ。


「問題はそこがどこか……」


俺が現れた場所は大雑把に言えば山の中だ。それは良いとしても、山の中のその部分に行くとなると問題が出てくる。似たような木々が並ぶ山の中でその一部分を探し出すというのは不可能に近い。ただでさえ、あの時の俺は景色を眺めている余裕なんてなかったわけだし、すぐに追いかけられる事態に陥ったから、尚更困難を極める。


「おい」


だけど、その部分近づくことは可能ではある。


「あの、ばぁちゃんが俺を見つけてくれ場所を教えてくれればだけど」


「おい、キサマ」


「はぁ」


俺は思わずため息を吐いた。


杖で追いかけまわされた事を思い出したからというのも勿論ある。ただ、それよりもあの家に戻る道すらも今の俺に分からないからだ。


「迷子なりっぱなし……」


「いい度胸だ。ムイ様の傍を離れるわけにはいかない私が、人不足ということもあって、仕方がなく商店でうろうろしている怪しい奴を調べに来てみれば、とことん無視をして時間を浪費させる始末」


「ん、あ、ごめん俺に話しかけてた?」


「この間にもムイ様が脱走する可能性を秘めながら、心中穏やかではない私をここまで無視続ける。そもそもムイ様がもう少しお淑やかに育っていただければ、私の苦労も減るというのに」


「ああ、あの……」


「しかし、それはそれで寂しい私もいるのだが……、うむむ、困ったものだ。二つを同時に解決できれば、いやそれは欲張りというものか」


「最後の方もう俺には関係ないような気がするけど」


「ん? キサマっ!」


「ようやく気が付いてキサマ呼ばわり……ってあれどこかで見た覚えが……」


「ようやく私の存在に気が付いたか」


それはお互い様な気もするが、それよりもこの子……って。


「げっ」


「どうやら調べに来て正解だったようだな、その反応からするにやましいことがあると見た」


目の前の少女が思うようなやましいことはない。俺が別の世界の人間だということ以外を除いては。それよりも、この少女は俺が山の中を逃げ回る理由を作った少女だ。長い髪を後ろ手に縛り、腰に刀を差した抜刀少女。


そんな相手に動揺するなという方に無理がある。なによりすでにリアクションをしてしまった後だ。


「名を名乗れ、処分はそれからだ」


「名乗ったところで処分は確定してしまっていることが、人の話を聞かないと公言されているようで納得ができないんだけど」


考えても見れば、あの時と違いおれはすでにキャラクターとしての姿をしている。だから、特にこの少女に因縁を付けられる理由なんてないはずだ。服装だって、すでにこの世界の服で、ワイシャツ姿の制服ではなくなって……、


「あれ、そういえば俺の服ってどこにいったんだ?」


今さらながら、俺は自分の格好がすでに変化を遂げていることに初めて気が付いた。そして、気が付いたことで、新しい希望が見えてくる。


「携帯がそこにあるはずだ……」


もしかしたら、元の世界に通じる可能性があった。


そうなると、山の中へと行く必要がある。服がなぜ変わっているのかは分からないが、おそらく俺が倒れている場所に落ちている可能性が高い。


結局のところ、あのばぁちゃんに――、


「さっきから何を一人でぶつぶつと……、『化け物』にあって以来変なことばかり続――なんだ急にっ、か、顔が近い! 離れろ!」


そうだった! 俺が追いかけられた場所にはこの少女もいたんだ。むしろばぁちゃんよりも俺が現れた場所にいける可能性があるのはこの少女の方だ。


「その『化け物』に――」


だ、駄目だ! 一番可能性がある少女は、一番俺の正体を明かせない少女だった。しかも、こんな疑われた状況で、正体を明かしようものならあの時の二の舞になりかねない。


「うーーん」


八方ふさがりとはこういうことだ。


「なんなんだこいつは。こんなのにかまっているよりも早くムイ様のところに行かなければいけないというのに」


「そうか!」


あの時いた少女はもう一人、ちいさな女の子もいたんだ。あっちの子を見つけ出せれば――、


「あっあああああ! だからっ、見つけるも何も、ばぁちゃん家にだって戻れないのにっ、どうやって!」


「いい加減にしろ、さっきからなんだというのだ!」


一喜一憂している俺に、苛立った様子で問われる。


「簡単な話、俺は壮大な迷子の最中ってこと」


投げやりな態度で俺はそう答えた。



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