開幕、『新しい世界』③
三人の後ろ姿を追いながら廊下を歩いていく。どうやら、この家は俺の世界で言う平屋の一戸建てのような作りをしているようだ。廊下は長いというほどではないが、それなりに道が出来ている。別にこの世界の家の作りに興味があったわけではないが、食事をご相伴にあうということで、俺はそれなりにこの家の事情を把握しようとしていた。
裕福ならいいというわけでもないが、俺なりに気を遣う部分は出てくる。恩を与えられている俺としてみれば、少なからずどういう形でその恩を返すべきか考えなくてはならない。
そんな考えに耽っている時だった。
「なんじゃ、ようやく目が覚めたのかい?」
突然、どこからか声が聞こえた。
だが、後ろを振り返ってみてもその声の主の姿がない。瞬間的にある結論に至り、瞬時にそれを受け入れる。あまり挙動不審な姿を見られるわけにはいかない俺は、この世界であり得る可能性に対応していかなければならないのだ。
「この家は喋れるのか」
天井部を眺めながらそんなことを呟いた瞬間だった、俺の脛に激痛が走る。
「いっ、で!」
後遺症が残る古傷なんてものはない、単純に誰かに固い棒で殴られていた。
「誰が豆粒のように小さいババァだ!」
誰もそんな事を言っていないのに、下の方から怒りを露わにした年寄がいた。あまりに小さくて俺の視界の範囲よりもさらに下にいたようだ。
「ばぁちゃんだ」
「妖怪ババァだ」
「おばあちゃん! お客様になんてことをっ」
どうやら、その小さい年寄は三人の祖母のようだった。
「なにがお客様だ、ただの拾いもんだろうね」
拾いもんとは中々ひどい言われようだが、事実なので何も言えない。というよりも、杖と思われる棒で殴られた脛が痛くてあまり状況についていけなかった。
「もう体は大丈夫のようだね」
「お、おかげさまで」
「あ、こちら私達の祖母でヘロ」
「っ!? エロとはまた大胆な名前で……」
ブチッ!
って何かが切れる聞こえた気がした。
「誰がエロじゃ! 貴様の脛を粉々にしてくれるわっ!」
「う、うわわわわっ、ただの聞き間違いです! あぶなっ! フルスイングで杖を振り回さないで!」
「え、なにっ、なにが起きたの? ねぇリン君っ!?」
「ねぇ、ごはんにしようよぉ」
「お、おおおばあちゃんっ! 振り回したら危ないよっ!」
「ああん、リン君が無視するぅ」
「なぁ、兄ちゃん、ふるすいんぐってなんだ?」
「ちょ、それどころじゃないって!」
「教えてやろうリン、誰かの脛を破壊するときに出す必殺ワザの名前じゃ!」
「ウソを教えるなぁああああああああああ!」
本気で脛を狙ってくるエロ改め、ヘロの攻撃から逃げる為、脱兎のごとく逃げ出す。そんな俺の後方で思い出したかのように、
「あ、そうだ。名前聞いてなかったですよね! 私はピュアって言います! あなたはっ?」
少し遠ざかりつつある距離に大きめの声で質問がされる。
「ほ、蛍、火村蛍!」
ただこのタイミングで聞く事なのか。断じて違う、自己紹介をするタイミングでは決してない! 名乗る俺も俺なのだけど……。
「ヒム……? ……ホタルさんですね! ホタルさんを見つけたのおばあちゃんなんです!」
恩人がこのばあぁちゃんだっていうことも、このタイミングで明かすのもこのタイミングではなかった。
「クダケロヤァアアアアアアアアアアアアアアア!」
「年寄の発言じゃねぇえだろっ!」
その恩人であるはずの人間から、今度は脛を破壊されそうになっているのだから。
「勘弁してくれぇええええええええええええええええええええ!」
起きて早々、今度は単純明快な理由の鬼ごっこで逃げる羽目になった。




